多芸な役者として知られる滝田栄は武道にも優れ、抜刀術の有段者でもある。剣術・武術の使い手を演じる際のこだわりについて滝田が語る言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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滝田栄といえば、俳優界でも屈指の剣術・武術の使い手として知られている。特に、その居合の腕前は達人の域である。
「文学座養成所の時、バレエの練習の時間があったのですが、あのタイツを穿くのが嫌で。その時間を使って道場に通い、真剣で斬る稽古をしたんです。
侍の居方が凄く好きで、いつか侍を演じたいと思い続けていました。やるからには絶対に誰にも負けたくない。
目標としたのは萬屋錦之介さんでした。当時、錦之介さんが警視庁の剣道部で居合を習っていると聞いていました。錦之介さんも本番では竹光を使う。それなら、真剣でもあれくらい動ける体を作りたいと思って、道場通いを始めたんです。
当時、時代劇をやるからには刀と槍と弓と馬は必須と言われていました。ですから、なけなしの金をはたいて乗馬クラブにも通いましたし、初めて家を作った時は四十畳の稽古場を作って六尺の槍が振れるようにもしました。一番力を入れたのは刀です。刀鍛冶を訪ねて自分用の刀を打ってもらって、実際に物を斬って、稽古しました。
二十代前半の頃に抜刀術の四段の試験を受けた時は先生から生き物を斬ってこいと言われました。よく行く八ヶ岳に野犬がいるというので斬ろうとしたのですが、僕に気づいた途端、逃げてしまう。凄い殺気が出ていたんでしょうね。
そのことを先生に話したら、殺気を見せているようでは駄目だと言われました。一、二で斬りかかるのではなく、殺気なしで近づいて、一でやるんだ、と」