地下鉄東西線の通勤電車の中で漫画を描く過程をSNSでアップし続け、口コミで人気を呼んでいる“通勤マンガ家”座二郎氏。雑誌『ビッグコミックスペリオール』(小学館)のウェブサイトで2012年から連載を開始した『RAPID COMMUTER UNDERGROUND』は、通勤電車で漫画を描く男の話で、地下鉄の中にバーや水族館が出現する、夢のようなメタ構造のような不思議な魅力がある。サラリーマンとしても多忙な日々を送る彼が時間を削って執筆を続ける理由とは?
――漫画を描き始めたきっかけは?
座二郎:漫画家になりたいと思ってたわけではないんですけど、もともと絵は子供の頃から好きでしたし、大学の建築学科でよく描いていました。20代でバンドをやっていた時に、バンドは売れないしモテない。でも自分が描いたジャケットの絵は評判がよかったんです。絵ばかり褒められるから、なんとなく絵はうまいのかなと思っていて…。彼女(今の奥さん)に言われてインターネットラジオを始めました。電車の中で漫画を描いてみたっていうネタを、そのインターネットラジオでMP3と一緒に画像をアップしたらすごいウケがよくて。40ページほど描いたところで週刊モーニングの漫画新人賞に送ったら、賞をもらえたという流れです。
――サラリーマンをしながら漫画を描く理由って?
座二郎:根源的な動機は、「モテたい」です。それは僕の実存に関わることで、とにかくモテたいし有名になりたい。そもそも「モテる」が何をさしてるのかもわからないんですけど。承認欲求のひとつなのかな、と思っています。
――実際、漫画を描いてモテましたか? 女性ファンが多いんでしょうか?
座二郎:モテるようにはなりましたよ、やっぱり。男女どちらもだと思います。美大の子が多いような気がしますけどね。
――コラージュの上に漫画を描くスタイルは、他にはないですよね。
座二郎:きっかけは、現代美術作家の大竹伸朗さんなんです。賞を受賞したものの、その後何を描いていいかわからなくて低迷していた時に、大竹さんの大回顧展『全景』を観て興奮して、自分もコラージュを作ってみました。でも自分の表現としては世に出せないので、コラージュの上から漫画を描くことにしたんです。このスタイルは、たぶん他にはいないと思います。それをコツコツとウェブにあげていたら、今の編集者さんから声がかかりました。
――オールカラーというのは贅沢ですね。
座二郎:白黒漫画では競争相手が多くて勝てないので、カラーでいった方が有名になりやすいと思いましたし、白い紙に描くよりコラージュに絵を描く方が、僕しかやっていないから注目度は高まるだろうと考えました。漫画業界に飛び込んで有名になるのはすごく大変ですけど、畑の全く違う建築で習った絵の見せ方を漫画に活かす方が近道だったりするじゃないですか。よく評価してもらえる漫画の「空間的奥行き」も、建築現場で仕事をしてきた経験が活かされていると言えますし、今思うと、学生時代に建築学科で勉強したことは大きいと思います。
――以前は片道2時間の通勤時間、今は片道1時間だそうですが、ラッシュ時の電車の中で描くのは難しいのでは?
座二郎:始発で結構座れますし、立っていても描きますよ。電車の中の作業は、ネーム作り、下描き、ペン入れ、ベタ塗り。絵の具を使ったり、コラージュを作るのだけは朝家でやってきます。朝5時半に起きて、家での作業を30分ほどやっています。