安倍晋三・首相がライフワークに位置づけるのが北朝鮮による拉致問題解決であり、国民にもこの問題に精通したリーダーであるとのイメージが定着している。しかし、安倍首相が描いた「9月電撃訪朝」はうたかたの夢と消えた。
「夏の終わりから秋の初めにかけて」
日朝局長級協議で北朝鮮が拉致被害者などの特別調査委員会を立ち上げることで合意し、安倍首相が経済制裁の一部解除を閣議決定した今年7月時点で第1次調査報告(中間報告)の時期がそう決まった。マスコミや永田町には「9月の中旬にはリストが来る」と、まことしやかに情報がリークされた。
ところが、期待は見事に裏切られた。菅義偉・官房長官は、その「9月中旬」が期限を迎えた9月19日の記者会見で、こう発表した。
「今回、北朝鮮側から『現時点で、調査の初期的段階を超えた説明を行なうことはできない』という連絡があった。したがって、調査結果について、最初の通報時期は現時点では未定である」
だが、真相は北が報告を引き延ばしてきたわけではない。本誌が官邸中枢から得た情報によると、この夏の終わりから秋の初めにかけて、外務省の伊原純一・アジア大洋州局長は少なくとも3回、北と秘密交渉を行なっている。
最初の協議で北朝鮮側は「第1次調査報告」の概要を伝えてきた。
「北の回答は、『特別調査委員会のすべての調査結果が出るには1年程度かかる』『中間報告の正式な伝達は9月18日にしたい。その際、日本側の担当者が訪朝すれば手続きが早い』そして『現時点での拉致被害者の生存者はゼロ、よって中間報告での回答にも拉致被害者は含まれない』というものだった」(外務省関係者)
8~9月にかけての日朝の交渉は高度な外交的駆け引きでもなんでもなく、安倍首相の見通しが最初から甘すぎただけの話だ。