北朝鮮が日本人拉致被害者に関する最初の報告を先送りした。当初は「夏の終わりから秋の初め」とされていたが、報告がいつになるか、見通しが立っていない。
国内には「拉致被害者の早期帰国は難しくなった」という悲観的な見方がある。だからといって、日本が課した制裁を復活できるかといえば「制裁を復活すれば、交渉が中断してしまうかもしれない」という声もある。
期待が高かっただけに、先行き悲観論が広がったのは否定できない。だが、私の見方は違う。追い込まれているのは日本ではなく、北朝鮮なのだ。彼らはまさに悲観論が広がるのを期待している。
それは、北朝鮮の側に立って考えれば分かる。彼らは譲歩はできるだけ少なく、日本の見返りはできるだけ多く引き出したい。当面の目標は万景峰(マンギョンボン)号の入港許可だ。
それだけでなく、最終的に日本から多額の経済援助を引き出すためには、拉致被害者カードはできるだけ最後まで手元に残しておきたい。ところが特別調査委員会設置後、日本で「拉致被害者が帰ってくる」という期待がかつてなく高まってしまった。
もしも拉致被害者が帰ってこなければ、万景峰号の入港どころではなく、高まる世論に押されて制裁復活さえあり得る勢いである。
彼らとすれば、まずは日本人妻や遺骨の帰国程度で万景峰号入港を認めさせたかったのに、大きな誤算が生じた。とにかく日本の期待感を冷やしたい。「残念だけど仕方がない」という「あきらめ感」を広げたい。それが報告先送りの真相だろう。
したがって、ここで日本自身が悲観的になってしまえば、彼らの思う壺だ。日本は拉致被害者だけでなく特定失踪者も含めて全員帰国を求める声を一段と高めなければならないのである。
以上の基本構図を踏まえたうえで、あえて日本側の弱点も指摘しておきたい。それは官僚とマスコミである。