作家・葉室麟氏の直木賞受賞作『蜩ノ記』(ひぐらしのき)を黒澤明監督の愛弟子・小泉堯史監督のもと映像化。主演したのが役所広司(58)である。全編フィルムで撮影された映像は、独特の色合いを見せる。
郡奉行の身でありながら、大殿の側室と不義密通をしたという前代未聞の事件を起こした戸田秋谷(役所広司)。十年後の夏に切腹を言い渡され、その間に藩の歴史「家譜」の編纂を命じられる。
一方、城内で刃傷沙汰を起こした檀野庄三郎(岡田准一)は、家老から罪を免ずる代わりに、切腹が三年後に迫った秋谷とともに暮らし、監視しろとの藩命を受ける。それは秋谷の関わった密通事件が家譜にどう書かれているかを報告せよというもので、大きな陰謀が渦巻いていた。役所は新作について、穏やかな口調で語り始めた。
──小泉監督との初タッグはどうでしたか。
役所:オファーが来たときは、小泉監督の作品に参加できるということにまず喜びを感じました。その後、原作、脚本を読み、秋谷やその家族の人となりに感動したものです。
時代劇で侍は何度も演じてきましたが、小泉監督こそ、人間的に侍みたいなかたで、とてもストイックでした。ご自身の映画人生の中で、黒澤(明)監督に教わったことを大切にしていこうという思いが非常に強い。”小泉組”のスタッフ全員がそんな思いを結集して作品を作り上げていこうという気概を感じました。
──四季の美しい映像が印象的でした。
役所:セリフも名言が多いですが、それを説明的ではなく、いかにシンプルに伝えるかに気を遣いました。あとは映画ですから、画の力で見せていく。
デジタルも進歩していますが、やはりフィルムにはニュアンスの違いがあるんですね。フィルムで撮影するためにスタッフは入念に準備をして、ほとんどのシーンが1回で撮影されました。監督の潔さでもあり、僕は大丈夫だったのかと心配になりましたが、実際に出来上がった映画は非常に美しかった。
──『どら平太』『十三人の刺客』など多数の時代劇に主演してきましたが、今回演じた秋谷という男についてはどう感じましたか。
役所:とても立派ですよね。死を受け入れ生を全うする。大殿(主君)の心を受け止め、その指示のままに務めを果たし、死んでいこうとする。藩のため、殿のため、つまり誇りを守るために自分が犠牲になる。それが「侍」というものかなと思います。