9月11日に朝日新聞の木村伊量(ただかず)社長が「吉田調書」誤報と「従軍慰安婦問題」誤報を認め、謝罪する会見を開いてからというもの、朝日新聞の周辺は騒がしいままだ。この件について触れた池上彰氏のコラムが掲載見合わせになったことが週刊誌などに漏れたため、あわてておわびと池上氏のコメントを添えて掲載している。この事件をみると、朝日新聞が危機的な状況にあると作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は指摘する。
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今回の事件は、別の観点からも深刻な問題をはらんでいる。この掲載見合わせに関する情報が、池上氏からでなく、朝日新聞側からリークされたことだ。記者会見で、木村社長は「途中のこととはいえ、途中のやり取りが流れて」と述べているので、問題の所在はわかっている。
新聞や雑誌は編集権を持つ。「あなたの書きたいことならば、何を書いても構いません」というような原稿を著者に依頼することは、編集権の放棄であり、まともな新聞や雑誌ならば絶対に行わない。
自社の価値観、経済的利益に反するという判断を社として行った場合、新聞や雑誌が、原稿の書き直しを要求することはよくある。著者が書き直しを拒否した場合、あるいは書き直した後の内容でも社の方針と合致しない場合、新聞や雑誌は編集権を行使して、寄稿を拒否することがある。
従って、認識や利害関係の違いから、著者と編集部の間で、さまざまなやりとりがなされることはよくある。ただし、それについては双方が同意しない限り外部に漏らさないというのがルールだ。そうでないと書き手は、編集部に秘密情報や率直な意見を伝えることができない。
朝日新聞社のような巨大新聞社は、膨大な情報を有している。その中には、国家機密に属するような情報も少なからず含まれている。編集権をめぐるやりとりの秘匿は、情報源の秘匿と同じくらい新聞社にとっては重要な事項だ。
池上氏の寄稿を保留した件が外部に漏れた場合、自社にとって重大な不利益をもたらすことを関係者は認識していたはずである。