「外国の演出家はどんな芝居の作り方をするのかと思ったら、『自由にやってくれ。ただ、同じことを二度やろうとは絶対に思わないで、芝居は毎日変えてほしい』と。それから『綺麗な声を出そうなんて思わないで、鞭を打たれた時に出る苦しい声を表現する。ミュージカルじゃなくて《歌う演劇》だと思って演じて』と言われて、『これは絶対にできる』と思いました。

 14年間、プロボクシングの世界タイトルマッチに出るくらいの覚悟で、毎朝家を出ていました。朝起きた瞬間に『今夜はこれをやってみよう』『こういうふうに試してみよう』って。その準備をするために、家族とは口もきかずに、体をほぐして心を整えて、劇場に黙って入る。僕と斎藤晴彦さん、島田歌穂さんは他の共演者が劇場に入る頃には準備は終わっていました。

 二千人のお客さんが打ち震えて感動して、滂沱(ぼうだ)の涙を流している姿を劇場で14年、見てきました。念ずれば花開くって本当なんだと思いましたよ。

 劣等生の研究生の時、『本気でやらないと通用しない。それなら人間は素晴らしいということを伝えられる仕事がしたい』と思いました。ただ有名になるため、面白がらせるためというスタンスでは、僕は芝居ができない。これは素晴らしい、と思うと血湧き肉躍って、魂が動き出す。本数は少ないですが、これ以上なく感動できる作品を次々とさせていただけました」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。最新刊『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)も発売中。

※週刊ポスト2014年10月17日号

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