『妖怪ウォッチ』の大ヒットや『地獄先生ぬ~べ~』(日本テレビ系)の実写ドラマ化など、今年は“妖怪”がブームを巻き起こした。それと同時に、夏が過ぎても“怪談”も引き続き注目を集めており、幽霊ものの展覧会や舞台、ライブイベントなどが多数開催されている。
怪談文学に精通する文芸評論家で怪談専門誌『幽』編集長の東雅夫さんも、「週末ごとに妖怪や怪談絡みの講演やイベントに呼ばれますが、『幽』の創刊から10年続けている中で、ここまで立て込んでいるのは空前という感じがします」と言う。
ではなぜ今、妖怪や怪談がブームなのだろうか? さまざまな要因がある中で、まず大きな流れがあると東さん。
江戸の文化文政時代、鶴屋南北の四谷怪談や、幽霊や妖怪の浮世絵を描いた葛飾北斎などによる一大怪談ブームに始まり、明治大正時代の柳田國男、泉鏡花、芥川龍之介、夏目漱石、小泉八雲ら文豪によるブーム、そして現在のブームまで、日本では約100年ごとに怪談が大流行していると、東さんは著書『なぜ怪談は百年ごとに流行るのか』(学研パブリッシング刊)に書いている。
「当時、代表的な文豪や学者が、夏になると大がかりな怪談会を開いて盛り上がっていた様子が新聞にも掲載されています。歴史は繰り返すと言いますが、振り返ると妖怪や怪談のブームが約100年ごとに起きている。文化や歴史には振り子のような動きがあるので、怪談に関心が高まるサイクルがあるのかなと見ています」(東さん)
そして不思議なことに、そのブームの時期が、なぜか戦争や大震災など、社会的な動乱や変動、天変地異と重なっているという。
「1904年の小泉八雲の『怪談』や、1910年に柳田國男の『遠野物語』が世に出た明治大正の戦前の流行時期には関東大震災がありました。そこから101年目には今回の東日本大震災がありました。ちなみに、江戸後期の流行後には幕末から明治維新の内戦があり、大正時代の場合はその後太平洋戦争に突入しています。非常に大きな社会的動乱や変動、加えて地震などの天変地異の前には大衆が何か予感して不安な心理に陥るのかもしれません。不安になると人間はどこかに拠り所を求めようとしますが、日本人にとって妖怪や怪談は今も昔も重要な魂の拠り所なのです」(東さん)
その理由は、怪談が語られる背景にもある。日本で夏に怪談が語られるのは、怖い話で涼しく…が俗説だが、実はお盆の風習と関係したものだとか。
「盆踊りはお盆に地上に戻ってきた祖先の霊をお迎えして、一緒に輪になって踊って死者の魂を慰めるための行事です。怪談も同じように、お芝居や映画、小説などによって我々が死者の記憶を追体験することによって、非業の死を遂げた人たちの供養になるという考えがベースにあるのです。もともと怪談は慰霊鎮魂に由来するので、四谷怪談のような話が江戸時代からずっと語り続けられているのです」(東さん)
震災も怪談ブームのひとつの要因であると東さんは語る。東さんが主宰している被災地支援のチャリティ「ふるさと怪談トークライブ」も、実際に広がりを見せているという。
「被災地で語られている怪談には泣ける話や笑える話もあるんですよ。例えば避難所の仮設住宅でのお年寄りの集まりに、津波で亡くなってしまったはずのおばあちゃんが混じっていることがあると。お茶しているときにはみんな気がつかず一緒に談笑しているんだけど『あれ? さっき○○さんがいたけど、あの人津波で流されたよな』と。『ああ、○○さん、だいぶボケがきてたからね、死んだの忘れて来てたんだね』という話があったり…。亡くなった方が来て一緒に話すというのは、盆踊りを一緒に踊って慰め合うことと本質は同じなんですよ」(東さん)