日本外務省の対応もグレンデールとは異なる。8月7日に着任した堀之内秀久ロサンゼルス総領事は、チャーフィー市長や市議、博物館理事、地元メディアと精力的に面談し、設置撤回を訴えている。
堀之内総領事から市長らに宛てた書簡では、フラトン市と日本の友好関係に謝意を述べたうえでこう述べている(要約)。
「像が設置されるようなことがあれば、日本国民のフラトン市に対する友好的な感情は著しく打撃を受け、将来の経済活動においても悪影響が生じることを憂慮しています。
アメリカ合衆国の地域社会は、多くの異なる国の出身者からなっている。慰安婦問題のような日韓のセンシティブなトピックを地方自治体の議題に持ち込むことは、フラトン市におけるアジア系住民のコミュニティ間に緊張と誤解を拡大させるものと考えます」
グレンデール市に対する前任総領事の抗議は「強制連行の事実はない」という点に終始していたが、堀之内氏の書簡はさらに一歩踏み込んだものといえる。
米国の地方議会に慰安婦問題の真実を追求する意識や調査能力は期待できない。所詮は他国と他国の歴史論争でしかないからだ。その点、堀之内総領事が「多民族国家・アメリカの良識」を問うて説得するアプローチに切り替えたことは注目に値する。「この戦略は着任前に、外務省出身の谷内正太郎・国家安全保障局長とも綿密な協議がなされたもの」(外務省筋)といわれている。
また、姉妹都市の福井市は東村新一・市長が9月8日付でチャーフィー市長に設置反対の親書を送付、同市議会も同月24日の本会議で反対決議を可決した。「日韓の歴史問題」ではなく、「日米関係の問題」として日本の意思を示す効果は大きい。
※週刊ポスト2014年10月31日号