2016年度の新卒採用から、就職時期が繰り下げになる。ならいっそ、就職活動は大学卒業後に行ってはどうか。作家で人材コンサルタントの常見陽平氏が考える。
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大学生の就活をどうするか。これは簡単な問題ではありません。いつもあるべき姿の議論になるのですが、結論が出ません。なかでも、「なぜ在学中に就活をしなければならないのか?」ということについて考えたいと思います。よく、「就活は卒業後にするべきだ」という意見がありますが、これは企業と若者を幸せにするでしょうか。
先日、このことを再認識する、ある「事件」がありました。あるサイトで書いた記事がヤフトピに載りました。2016年度の新卒採用から実施される就活時期の繰り下げに関する記事です。
2015年度までは、大学3年生の12月1日に採用広報活動(就職ナビなどによる企業情報の発信、会社説明会の実施などを指す)が開始され、大学4年生の4月1日に採用選考活動(面接)などが行われ、10月1日に内定式というスケジュールでしたが、これが2016年度採用、つまり現在の大学3年生より採用広報活動スタートが大学3年生の3月1日、選考活動スタートが大学4年生の8月1日となります。これによる変化、弊害などについて論じました。
ヤフトピの経済カテゴリに丸1日半にわたり掲載されたので、この記事は拡散しました。「客観的に解説して欲しい」と依頼され、できるだけ淡々とした記事を書いたのですが、大反響でした。ただ、この記事に関する反響というよりも、そもそもの新卒一括採用の是非に関するご意見が多数集まりました。
Twitterで約250RT、Facebookで約320いいねを集めたこの記事への反応を見てみると、最も多かった意見は「就活は卒業後にするべきだ」「既卒者の就活を認めるべきだ」というものでした。この記事に限らず、毎年のように良くでる新卒一括採用批判ですね。気持ちはよく分かるのですが、私、この手の批判に関しては本当に若者を救うのかと首を傾げてしまいます。
事実を確認してみましょう。よく「新卒一括採用」と一括りにされ、批判されますが、実際はだいぶ要件が緩和され、やり方も多様になっています。
例えば「新卒にしか入社する権利がない」「卒業したら権利がなくなってしまう」という批判がありますが、これはウソです。経団連が2014年9月29日に発表した「新卒採用(2014年4月入社対象)に関するアンケート調査結果の概要」によると、既卒者の採用について応募受付をしている企業は69.2%でした。また84.0%の企業が既卒者を新卒採用の扱いで実施しています。
応募受付の条件(複数回答)については、「卒業後3年以内であること」が55.4%、「正社員としての就業経験がないこと」が42.3%、「特に条件なし」が25.7%という結果になっています。経団連の加盟企業は、大手企業が中心ですから、よくある「大企業は新卒にしか門を開いていない」という批判は、正しくはありません。
就職ナビに掲載してある企業の中ではどうでしょうか。2014年10月24日現在、リクナビ2015の掲載社数13227社中、既卒者の応募を受け付けている企業は4465社であり、約33.7%でした。経団連のデータよりは割合は減りますね。とはいえ、3割強の企業は門を開いているのもまた事実です。
もっとも、このデータはあくまで「門を開いているかどうか」であり「採用したかどうか」はわかりません。経団連加盟企業のIT企業の採用責任者によると「政府や大学などから呼びかけがある10数年前から既に実施している。ただ、既卒者からの応募はほぼ集まらない」とのことでした。
さて、肝心の「卒業後に就活をする社会になれば良い」という取り組みは若者を救うのでしょうか。私はこれに対しては反対です。理由は、逆に若者を救わないからです。