2015年秋以降、山手線の車内から消える予定の電車の中吊り広告。導入される新型車両には、窓上に13~20面の液晶画面が配置されるという。中吊り広告は「情緒があった」と消滅を惜しむ声や『AERA』の中吊りの名物だったダジャレキャッチコピーのファンらが残念がる一方、「下品」「うるさい」と賛成の声も。実際、電車の中吊り広告が消滅することによる影響とは? トレンドウォッチャーで『日経エンタテインメント!』編集委員の品田英雄さんに分析してもらった。
「中吊り広告の面白さは、雑誌にありました。特に週刊誌のタイトルは、テレビで“中吊り大賞”として取り上げられるほど、乗客の気を惹いて読ませるキャッチコピーは秀逸でしたし、大きな情報源でもありました。また、ビジネス誌の硬い中吊りの隣に『週刊SPA!』が並んだりする雑多な面白さがあり、世の中で何が起きていて何が面白いのか、いろんな角度から教えてくれましたね」(品田さん、以下「」内同)
それが2000年代に入って雑誌広告が減少し、さらにスマホの普及により乗客側の風景は一変。品田さんは「車内でスマホや携帯を見ている人は肌感覚で6~7割」とし、雑誌の中吊りが衰退した時点で乗客の行動が変わったことは大きな契機だったと語る。
「車内吊りがデジタル広告に変わったら、おじさんたちが若い子のファッション用語を知る機会はますます減りますし、男性週刊誌のHな特集の話題もなかなかできなくなります。それに中吊り文化は、世界的に見ても日本特有でしたので残念ですね」
デジタル化によって制作コストや時間を低減できるほか、スペースが決まっている中吊り広告と違い、1か所に多くのクライアントを入れられ媒体料金も安くなる。さらに、より細かなターゲットに向けて路線ごと、または時間帯や天気によって変えられるなどのメリットもあるという。
「車内の風景は一変しますし、可能性が大きく広がるのは間違いありません。電車の中にも“ネット革命”が起きている。作り手側から見ると、いろんな可能性があり面白い広告が作れる。もっと言うと、スマホと連動して車内で商品を購入できるようになるなど、物の売り方も変わるのではと盛り上がっています」
とはいえ、そこにはスマホに対抗できるようなアイデアが求められると品田さん。
「せっかく電車という閉じられた空間で人の関心を掴むチャンスがあっても、自分の好きなものだけを見たり聞いたり楽しめるスマホよりも興味を引くものでないと、あっという間に飽きられます。こんなに時間奪い合い戦争になっている中でスマホに負けないためには、お金をかけてアイデアを出して画期的なことをやらなくては。一方、それによる経済効果も期待できると思います」