「おれは刀をもっているんだ。お前ら、早くどっかへ失せろ」──。白いマスクをしたスキンヘッドの巨漢は道路を占拠している学生らをにらむと、仲間たちとともに誰彼の見境なく殴りながら、路上のテントを倒していった。
これは10月初旬、香港九龍地区の旺角で、親中国派が道路を占拠していた民主派学生や市民を襲撃した一幕だ。彼らのほかにも、痰を吐きながら、女子学生に卑猥な言葉を投げかけ身体を触るなどの乱暴狼藉を働いたグループもいた。その数はざっと1000人で、100人ほどのデモ参加者を取り囲んだ。
予想もしない襲撃に、一部の女子学生は「怖い。もう止めて」と泣き出したほどだ。警官隊が駆けつけ、白マスク部隊らと衝突。100人以上が負傷し、38人が逮捕された。驚いたことに、このうちの8人が香港の黒社会(マフィア)の一員だった。香港では中国返還(1997年)前からマフィアは中国寄りだけに、それまで運動を静観していた中国側が反撃に出た瞬間だった。
ジャーナリストの相馬勝氏が、香港デモで大暴れしている「白マスク」マフィアと北京政府の親密な関係についてリポートする。
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香港マフィアと中国当局の癒着を示す典型例は1990年から1998年まで、警察組織トップの公安相が数回、香港や北京で、香港マフィア最大の勢力を誇る「新義安」の最高幹部と会談していたことだ。
公安相は当時、中国人民武装警察部隊(武警)トップを兼務しており、中国政府内での治安維持関係機関の最高責任者だった。彼はマフィア幹部との親密さを隠そうとせず、1993年4月、北京での記者会見で堂々と「マフィア擁護発言」を繰り返した。
「中国は、もし香港黒社会(マフィア)の人々が愛国的で香港の安定と繁栄に尽くすならば、彼らと団結しても良い」
「香港と外国にいる黒社会の多くの人々は良い人々であり、愛国的である…(中略)…彼らは中国でビジネスに従事することが許される」
もし、日本の国家公安委員長あるいは警察庁長官がこのような暴力団を擁護する発言をしたら、「即クビ」であろう。公安相の発言は香港ではかなりの反発を受けたが、中国内では批判すらされなかった。なぜか。当時の最高実力者、トウ小平も香港財界訪中団に対して、同様の発言をしていたからだ。