職場の健康診断で、人間ドックを受ける人も多いだろう。毎年きちんと受けていれば安心と思いたいところだが、人間ドックに行く人ほど寿命が縮む危険があるから要注意と言うのが、元慶應大学病院のがん治療医、近藤誠氏だ。どういうことだろうか?
「今は機械が精密になっているから、数ミリの小さな腫瘤も発見されてしまう。脳に腫瘤を見つけられて、いつ破裂するかわかりません、なんて言われれば、手術して切除しようと考えるのも無理ないでしょう。
でも、脳腫瘍の場合、1センチ未満の腫瘤が1年以内に破裂する可能性は0.05%です。20年経っても1パーセント。一方、脳腫瘍の手術を受けて、後遺症が残る確率は15パーセントです。どちらが危険でしょうか? 毎年きちんと人間ドックを受ける人ほど、小さな腫瘍を発見されてしまうから危険なんですよ。
血圧やコレステロールなんかもそう。ちょっと基準値を外れるだけで異常とされ、薬を出されてしまいます。血圧140mmHgで降圧剤なんてとんでもないですよ。適正な血圧は人によって違うのです。それを一律に下げようというのはおかしい。そもそも高血圧値の基準は根拠のはっきりしない恣意的なものです」
人間ドックの受診者は年間300万人を超えるが(2012年)、受診者の9割方に、どこかしらに異常が発見される。そして何かしらの治療を勧められるのが現状だ。人間ドックに行かなければ降圧剤を常用する生活とは無縁だった──という人も少なくあるまい。
しかし人間ドックは、がんの早期発見に必要ではないかと考える人は多いが、近藤氏はそれを否定する。
「検診でがんを早期発見すれば、治療しやすいというのは思い込みであって、科学的に証明できるデータはないんですね。それより問題は、検診で“がんもどき”を発見されて、受けなくてもいい治療に駆り立てられることです。今すぐ手術しないと治らないとか脅されて臓器を切除されたり、抗がん剤の副作用で苦しめられる可能性があり、そのほうがよほど有害。不要な治療によって寿命が縮むこともありますから」
“がんもどき”というのは、近藤氏の命名で、放っておいても転移しないがん細胞のことである。「検診で見つかるがんは、ほとんどがんもどき」だと言う。
「一番いいのは人間ドックも検診も受けないことです。体調が悪いという自覚症状が出てきたら検査すればいいのです。無症状で受ける検査は百害あって一利なし」