ワンコインで天丼を提供する「天丼てんや」は近年、ちょい飲みメニューを拡充させてきた。運営会社であるテンコーポレーションの用松靖弘・代表取締役社長に、同社の経営戦略について聞いた。
海老、いか、れんこん、いんげんの天ぷら盛り合わせに生ビールの中ジョッキという「生ビールセット(580円)」がテーブルに運ばれてくると、用松社長はジョッキを傾けながら「やっぱり旨いね」と表情をほころばせた。
──こうして自社の店舗で飲むことはよくある?
用松:当社のキャッチフレーズは「日本には四季がある、てんやには旬がある」というもので、てんやでは期間限定メニューの変更を年に8回行なっています。
今は播磨灘産の牡蠣を使った「かき天丼」を提供していて、少し前までは「松茸天丼」でした。そうやってメニューが変わるタイミングで店舗を訪れて実際に食べながら、周りのお客様の様子を見て勉強することはよくあります。
──店内を見渡すと、「ちょい飲み」をしているお客さんが目立つ。
用松:我々がお酒やつまみとなるメニューの充実に力を入れ始めたのは約2年前のことです。
当社の店舗の多くはビジネス街をはじめ乗降客で賑わう駅近くに立地していますが、当時はそこに同じような価格帯の外食チェーンが続々と出店してきて競争が激化し、売り上げがわずかに下がっていました。
都心の駅前は賃料も人件費も高く、すぐに収益的に厳しくなります。そこで24時間営業の牛丼チェーンなどと比べてどうしても弱かったアフター5のてこ入れ策として「ちょい飲み」できるメニューを打ち出しました。
結果として夕方以降はもちろん、昼の時間帯でもお酒を注文するお客様が増えました。もともと、てんやは60歳以上のお客様が全体の3割以上を占めていて、これは外食チェーンで最も多い部類に入ると思います。
年金受給日である偶数月の15日は売り上げがドーンと上がる。そうした年齢層のお客様は昼過ぎから「ちょい飲み」を楽しんでいて、居酒屋が開店する前の時間帯にほろ酔い加減のいい気分になってもらっています。
──同様の効果を狙って他の外食チェーンも「ちょい飲み」に続々と参入している。どう差別化を図るか。
用松:以前に一度、居酒屋を意識したつまみメニューを揃えたことがありました。「さつま揚げ」「トマトとオクラの塩麹和え」「揚げ餃子」といった品目です。これが驚くほど全く売れなかった(笑い)。
その時に、「てんやに来るお客様はやはり天ぷらを食べたいんだ」ということに気が付きました。
ちょい飲みに力を入れるにしてもオンリーワンの天丼チェーンの強みを活かすことが重要だと認識し、揚げ物のつまみメニューを充実させました。その結果、「モッツァレラチーズの天ぷら(190円・一部店舗限定)」をはじめとする人気メニューが生まれています。
撮影■岩本朗
※週刊ポスト2014年11月28日号