アベノミクスの是非を問う衆院選が公示されたが、街中では「一向に景気回復の実感が湧かない」と、しらけムードも漂う。それもそのはずだろう。冷え切った国民の消費意欲を掻き立てるほどの「賃上げ」が広がらず、内需拡大に結び付いていないからだ。
確かにサラリーマンの給料は少しずつ上昇傾向にはある。
今春の労使交渉では業績回復を理由にベースアップや賃上げに踏み切る企業が増え、連合の集計では15年ぶりに2%超えを果たした。
直近でも10月の毎月勤労統計調査(厚労省発表)をみると、労働者が受け取った現金給与総額は、前年同月比0.5%多い平均26万7935円で8か月連続のプラスとなっている。だが、4月の消費税増税などによる物価上昇の伸びを差し引いた実質賃金は16か月連続して前年を下回ったままだ。
ニッセイ基礎研究所の専務理事である櫨(はじ)浩一氏は、現状をこう分析する。
「景気が良くて物価が上がっているならいいのですが、いま起きているのはそうではありません。
円安になって儲かっているのは一部の大企業だけで、多くの企業は輸入コストなどの増加分を仕方なく物価に転嫁しています。苦し紛れの値上げをしている過程で、思い切った従業員の賃上げもできない状況が続いています」
それに加え、ただでさえ利幅の小さい中小企業は深刻な人手不足に喘いでいる。企業の人事・賃金コンサルティングを手掛ける賃金管理研究所の取締役副所長、大槻幸雄氏が話す。
「中小企業で賃上げをした中には、業績回復というよりも労働需給のひっ迫により、せめて採用時の賃金を引き上げなければ人が集まらないと決断した企業が多いのが実態です。
もちろん、在籍している社員の生活やモチベーションも考慮しなければ優秀な人材に逃げられてしまいます。そこで、働き盛りの若手の賃上げ幅を大きくしながら全体の賃金カーブを緩やかにして、総額の人件費が膨れ上がらないよう調整するなど苦労しています」
人手不足から赤字に転落した牛丼チェーン「すき家」の例もあるように、偏った社内の賃金バランスや労働分配率のまま賃上げをすれば、業績低下や社員の離反を招く結果にもなろう。