『3年B組金八先生』での坂本金八で先生役のイメージが強い武田鉄矢だが、原作も手がけた映画『刑事物語』シリーズも人気が高い。『刑事物語』で名物となったハンガーを使ったカンフーアクションが生まれた当時について語る武田の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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武田鉄矢が、転勤を繰り返す不器用な人情派刑事・片山を演じた映画『刑事物語』は全五作を数える人気シリーズとなった。
「俳優というのは、ある役が当たるとその反対側に行きたがるんですよ。これはもう、本能です。天使に請いながら、悪魔にも尋ねてみることで人間の表裏を描きたいというかね。
『金八先生』が巨大だから、みんないつも僕に先生を重ねてくる。ですから僕はそれを脱ぎ捨てた役をやりたかった。カッとなったら何回も殴るようなね。
それで、体の関係込みの純愛ものがやりたくなったんです。片山という刑事は正義を貫いている。でも、女にモテないから、女とやれそうな状況になると抱きついてしまうんです。そうでありながら、どこかで懸命に愛を手探りしている。汚れた手で手探りをしているという。そういうドラマをやってみたかった。
ですから、僕はどこまでもシリアスでした。でも、スタッフから『武田鉄矢だから、笑いも入れていこう』と言われ、そういう風になっていったんです。笑っているのに気付くと涙が出ている。この二つの感情が味わえると、お客さんも満足してくれると思うんですよね」
『刑事物語』は毎回の終盤で武田がハンガーをヌンチャク代わりにしたカンフーアクションを展開し、見せ場となった。