パリ経済学校の創立者で教授のトマ・ピケティ教授による著書『21世紀の資本論』が昨年から欧米でベストセラーになっている。日本でもまもなく刊行予定だが、同書では、富の蓄積により拡大する格差是正には、所得ではなく資産に対する課税を世界的に強化すべきと説いている。日本では、どのように富の再分配が行われ、そこにどんな矛盾があるのかについて大前研一氏が解説する。
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日本は、世界的に見て富の再分配が最もうまくできている国の一つである。累進課税によって、イギリスと同じようにどんどん社会主義国化したからで、スイスの金融大手クレディ・スイスがまとめた「富の独占状態」という報告(※注)によれば、富の再分配が最も進んでいる国はベルギー(48%)で、第2位が日本(49%)だ。富の独占率が50%を下回ったのは、調査国中この2か国だけだった。
【※注】世界の主要国・地域における所得上位10%の人口の資産がその国の総資産に占める割合を示したもの。
厚生労働省の「2013年国民生活基礎調査」によると、等価可処分所得の中央値の半分の額に当たる「貧困線」(2012年は122万円)に満たない世帯の割合を示す「相対的貧困率」は16.1%で過去最悪となったが、まだ日本では街の中央がスラムに独占されているような状況はないし、飢え死にする人もいない。
かつては住民税を含めた所得税の最高税率が78%に達した時期もあった。今は最高55%まで下がったが、それでも江戸時代の「五公五民」よりひどい。その結果、世界でも富の集中が少ない国になっているのだ。
日本は諸外国に比べて相続税も高く、現在の最高税率は50%である。このため、たとえば東京・田園調布に不動産を所有していた知人は、相続コンサルタントのアドバイスで、相続税対策として借金をして敷地内に賃貸アパートを建設。
ところがバブル崩壊で地価が下がり、本人の死後、たしかに相続税はゼロになったが、借金が相続財産を上回って借金だけが残るという悲惨な結果になった。同様の例が多々あるため、かつての高級住宅地・田園調布も、今や区画が小さくなって普通の街並みになりつつある。