【著者に訊け】神田憲行氏/『「謎」の進学校 麻布の教え』/集英社新書/759円+税
〈この学校、何かが「変」〉。それが「麻布」(私立麻布中・高等学校)に対する神田憲行氏の印象だったという。早速取材を申し込むと学校側の対応がまた「変」なのだ。
〈変とおっしゃられても、我々としては理念に基づいて教育しているわけでして〉
〈そうだよな……〉
〈変なことをしているという自覚もありませんし〉
〈……〉
〈というわけで、今後の取材、よろしくお願いします〉
〈えっ、いいんですか!?〉
さらに当時の校務主任、彦坂昌宏氏は快諾した理由を〈自分たちの教育が外部の方の目にどう映るのか、とても興味があります〉と説明し、変なら変で、どう変かを知りたがる探求心は、本書『「謎」の進学校 麻布の教え』の著者と対象が一蓮托生の共犯者とも言える。
実はこの「というわけで」が順接を成すのが、麻布の麻布たる所以。常に東大合格者数上位の超難関校、都会的エリート集団といったイメージの向こうに、武骨なまでに自由を追い求めた素顔の歴史が浮かび上がる。
自身は大阪生まれ・奈良育ち。小中高と、〈どちらかというと程度のあまりよろしくない学校〉出身とある。
「それこそ大学進学を志望した僕に、『運動を頑張れ。そしたら運動部が拾ってくれる』と教師が言ったくらいで、なんやその進路指導って(笑い)。東京の私立、しかも御三家の麻布なんて、眩しすぎてクラクラしましたけど、他の学校ではここまで書けなかったと思う」
取材依頼から足かけ4年、神田氏は全ての校内行事を見届け、〈麻布の算数は美しい〉とも評される入試問題の秘密を探るべく、大手進学塾の講師にも話を聞いた。
「例えば麻布の算数や国語は解答欄が大きく、解答に至る考え方もちゃんと見て、〈部分点〉もくれる。しかも1問目が2問目、2問目が3問目の伏線を成す美しい問題は解きながら理解の道筋が身に付くよう意図され、作題にも採点にも、当然時間がかかるんです。
その手間を惜しまないのも入試問題が学校の〈顔〉だからで、解答欄の広さにその学校の方針を読み取ることも、できると思う。また塾で、血液1ミリリットル中の赤血球の数を教えると、ノートに書いて覚えるのが開成志望の子、〈先生、どうやって数えたんですか〉と質問するのが麻布志望の子らしい。知識の量より、それをいかに活用するかを問うのが、麻布の入試だと言えます」
その姿勢は授業にも通じ、英語は〈生の英語を読ませる原典主義〉。また、国語は中3で〈卒論〉、社会は高1で〈修論〉があり、テーマも〈「東ドイツ国民から見た東西ドイツ統一と東ドイツ」〉等々、そこらの大学生顔負けだ。