欧米でベストセラーになっているパリ経済学校の創立者で教授のトマ・ピケティ教授の著書『21世紀の資本論』(邦題は『21世紀の資本』みすず書房刊)。同書は、格差是正には所得ではなく資産に対する累進課税すべきと説いている。しかし、それは好ましくない結果を生むと考える大前研一氏が、もっとも日本社会に適した課税方式を提案する。
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いわゆるビッグデータを真面目に分析したという点で本書は重要である。しかし、ピケティ教授が格差拡大の解決策として主張している累進課税は、結果的に人々のマインドを小さくする。資本主義社会は、利潤動機がなければエネルギーが出てこないのだ。
しかも、極端な累進課税は民主主義の哲学に反する。民主主義は「1人1票」だ。ところが、日本のように所得が多い人には住民税を含めて最高55%課税し、所得が少ない人(課税最低限以下の人)には課税しないとなると、選挙の投票などでは権利は同じなのに、負担(納税義務)に大きな差が生じる。私は、最低でも5%は課税し、累進制にするとしても最高税率は25%程度に抑えるべきであり、それが活力ある社会を保つ限界ではないかと思う。
かてて加えて、政府と国会議員は組織票を持つ団体などに媚びへつらい、票が多い低所得層へのサービス合戦を繰り広げている。そうなると何が起きるか? 本来、高所得者たちは社会的に多様な貢献ができるはずなのに、すでに自分は高額な税金を納めることで十分義務を果たしているという意識になり、社会貢献マインドが非常に小さい“矮小化した富裕層”をつくってしまう。
だが、「稼げば稼ぐほど社会に貢献できる」というインセンティブがない社会は発展しないと思う。
では、代案は何か。かねてから私が提唱している「(フラットな)資産課税」と「(例外なき)付加価値税」だ。
改めて簡単に説明すると、資産課税は預貯金や株式などの流動資産と不動産などの固定資産に対し、それを相続した人も含めて一律に1%課税するという制度である。たとえば100億円の資産を持っている人や相続した人は、例外なく年間1億円の資産税を払うわけだ。