映画『幸せの黄色いハンカチ』で本格的に役者デビューした武田鉄矢は、その後、活躍の場を着々と広げ、NHK大河ドラマにもたびたび出演している。初めて出演した時、主演だった石坂浩二との思い出について、歴史上の人物を演じるときに大事にしていることについて武田が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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武田鉄矢にとってのNHK大河ドラマ初出演作品は1979年の『草燃える』だった。本作で武田は、石坂浩二扮する源頼朝の側近くで従い続ける御家人・安達盛長を演じている。
「駆け出しの俳優にとっては大河ドラマって憧れなんですよ。それで石坂さんを必死になって観察しました。石坂さんのセリフ回しが、大河ドラマのセリフ回しなんです。実際、石坂さんの言い方で言うと、OKをもらうのが早かったですから。石坂さんの声は鼻音で力まないで、独特のうねりをつける。あれを狙っていたんです。大河で主役をやるなら、この言い方だなと。
録音さんが迷うくらいでした。僕を録った後でマイクを石坂さんに向けるんですが、僕のセリフが終わった後でもマイクをこちらに持ってきたままなんですよ。
石坂さんにバレちゃいましてね。『お前、俺のマネしてるだろう』って。『石坂さんが主役なんだから、主役のマネをするのは当たり前です』とこちらもハッキリ言いました。
石坂さんには本当に可愛がってもらいました。あの人、ハンサムなのに『俺はお前みたいな顔に生まれたかった』って言うんですよ。『世間じゃ俺を毒にも薬にもならないという。お前みたいな顔に生まれたら、俺も個性派のイイ役者になれたかもしれない』と。なんてことを言うんだろうと思いましたよ」