【著者に訊け】『付添い屋・六平太』金子成人氏/小学館文庫/600円+税
生きる。すなわちそれは〈生業〉を持ち、日々の生計を立てることでもあった。
武士とて例外ではない。わけあって浪人に甘んじ、浅草・元鳥越の借家に妹と暮らす元・信州十河藩藩士〈秋月六平太〉の場合、商家の子女の警護などをして日銭を稼ぐ自称〈付添い屋〉が、現在の飯の種だ。
時は徳川11代将軍・家斉の時代。各藩のお家騒動と町人文化の活気が交差する地点に、金子成人著『付添い屋・六平太』は舞台を置く。このほど3巻・鷹の巻までが刊行された本シリーズでは、藩を追われた六平太のこんな呟きが印象的だ。
〈河岸の男たちの活気を見ると、いつも気遅れがするのはどうしてだろう〉〈おれだって仕事をしているのだからなにも恥入ることはない、と心の声を上げるのだが、空しさが残る〉……。
本作は人気脚本家・金子氏の初小説。自身、下積み時代は配達のアルバイトや八千草薫氏の運転手をして食い繋いだという、〈最強の大型新人〉の思いを訊いた。
江戸後期、生活感溢れる剣の遣い手という設定は、かつて金子氏が脚本を手がけた『御家人斬九郎』(フジテレビ系 柴田錬三郎原作 渡辺謙主演)とも重なる。
「僕は時代劇でもああいう洒脱さがある方が好きだし、人が生きている感じがする。
例えば飯屋。それ以前は屋台で何か軽くつまむ程度だったのが、江戸も中期以降になると多種多様な飯屋が方々にでき、人が集まる拠点になった。脚本もその方が書きやすいし、飯屋や芝居小屋や岡場所に雑多な人間が入り乱れる猥雑さに、僕は惹かれるんですね」
かつて〈供番〉と呼ばれる警護役にあった六平太は、江戸生まれの江戸育ち。生母は早世し、父は後妻〈多喜〉を娶るが、10年前守旧派と改革派の政争に巻き込まれて切腹。実はその多喜の兄こそが改革派の先導者の一人〈杉原重蔵〉で、六平太も共に謀反を疑われる形で藩を追われていた。
義母の死後は、その連れ子〈佐和〉と2人で暮らし、遊び人の兄を針仕事で健気に支える妹に六平太は思う。〈―無垢過ぎる〉〈佐和の無垢さは罪でもある〉と。
「尤も彼は護国寺の門前町、音羽の髪結〈おりき〉ともいい仲で、殆どこっちに入り浸っている。イメージでいうと今は亡き太地(喜和子)さんかな。気風がよくて艶っぽくて、男をピシッと締める同志的なところが、僕自身の好みです(笑い)」