武田鉄矢が1991年に恋愛ドラマ『101回目のプロポーズ』にヒロインの相手役として登場したとき、当初は否定的な見方が多かった。ところが、平均視聴率23.6%、最終回では36.7%を記録し今でも語り継がれる作品となった。その年の新語・流行語大賞にも選ばれた台詞『僕は死にません!』を演じたときのことを語った武田の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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武田鉄矢は『101回目のプロポーズ』で浅野温子を相手にフジテレビのトレンディドラマに初主演し、話題を呼んだ。
「最初は浅野さんと芝居がかみ合わないんだよ。最初に食い違ったのは『五十年後の君を今と変わらず愛します』というシーン。まず僕だけを撮って、それから切り返して彼女を撮るんだけど、向こうの芝居が見当つかないから僕は泣きながらやっちゃったんだ。そうしたら、彼女は表情を変えずに横を向く芝居をした。彼女が凄く冷たく映ってしまうわけですよ。
トレンディドラマを頑なに堅守する浅野さんのお芝居と、隙があれば攻め込んでいく僕の芝居がどんどんヒビ割れていきましてね。
そのうちトラック前に飛び出す場面になった。そこには野次馬が集まってきて、暴走族とかが邪魔しそうだったんです。それで、『一発かましたれ』と思って、トラックの前に飛び出したんです。ロケ撮影って、一種の路上パフォーマンスなんですよ。そこで見ている人たちを巻き込むくらいの覚悟でやっています。
それで、トラックの前に飛び出して『僕は死にません!』って言ったのよ。そしたら暴走族もフリーズしている。で、今度は切り返しじゃなくて二台のカメラで、僕を見ている浅野さんも撮っている。そうしたら浅野さん、わんわん泣いて、へたり込んだの。彼女が僕の芝居に付き合ってくれたんだ。それで照明さんも音声さんも泣いてくれた。そのあたりから、木目が揃い始めていった気がします」