もうすぐやってくる2015年は、ボランティア元年と呼ばれる阪神淡路大震災から20年の節目になる。それまでボランティア活動に縁がないと言われた人たちが多く活動に参加したあの年のあと、2011年に東日本大震災を経験して、人々の社会貢献への意識は大きく変化した。この意識変革は企業の姿勢にも及び、毎年発表される企業CSRランキングでも社会貢献の項目にはとくに注目が集まっている。
「企業の社会貢献は決して新しい概念ではないんです」と岡山商科大学教授の長田貴仁さんは言う。
「江戸時代に活躍した近江商人は『売り手よし、買い手よし、世間よし』の『三方良し』を良い商いの精神としておりました。良い商品を売って顧客に喜んでもらい、地域社会にも貢献することで、結果的に長く商いを続ける上で最も重要な信用がさらに高まる『サステイナビリティ(持続的可能性)』を重視していたのです。また、日本では『秘すれば花』の言葉があるように、善行を公言しないことこそが粋(いき)という美学もありました。
とはいえ、近年では企業活動のグローバル化がすすんだこともあり、日本だけでなく外国社会にも貢献していることを知ってもらう必要性が生じてきました。そのため、社会貢献活動をわかりやすく説明しようとする企業が増えています。
2001年のエンロン事件以来、米国では『企業倫理』という科目を新設する経営大学院(ビジネススクール)が増えました。この偽装会計事件をきっかけに、コーポレートガバナンス(企業統治)の重要性が問われるようになり、あらゆる人から企業の在り方が注目され『会社は何のためにあるのか』、つまり『企業の最大目的』が社会の大きな関心事になってきました。それに従い、日本企業は『世間よし』を見直すようになりました」
実際、社会貢献活動を報告するようになった企業は多い。少子化がすすむ現在の日本で関心が高まっている次世代育成や子ども支援の分野だけをみても、実に多種多様な活動がみられる。
たとえば、JX日興日石エネルギーでは社員や研究所員が「ENEOS子ども科学教室」や「燃料電池の発電実験」を行っている。さかのぼると100年以上わたり同社が扱ってきた石油、エネルギーの専門知識を生かした内容だ。もうひとつ、ヤマト運輸が一年間で2000回以上実施する、セールスドライバーを中心とした社員による「こども交通安全教室」も、企業がその専門分野を生かした例だろう。
ユニークな例としては、プロ野球球団のオーナーでもあるDeNAが2014年シーズンに実施した「命を救うホームラン」がある。具体的には、横浜ベイスターズの選手がホームランを1本打つごとに、ミャンマーの無電化地域で活動する助産師にソーラーランタンを1台寄贈するというものだった。プロ野球のオーナー企業の数は限られているから、他社では実施しづらい。
事業とは直接、関わりがなさそうな分野に乗り出す例もある。武田薬品工業の「タケダ・ウェルビーイング・プログラム」は、長期の病気療養する子どもとその家族をサポートする団体への助成だ。単純な金銭の支援ではなく、あそびボランティアや学習支援、きょうだい支援など内容を相談しながらすすめられている。病気療養に薬は欠かせないため隣の領域と考えることもできるが、事業のノウハウが直接、通用するとはいえない。
日本マクドナルドが主体的に支援している、公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンによる子どもの治療に付き添う滞在施設提供に至っては、ハンバーガーショップであるマクドナルドの事業とはかけ離れた分野だ。だがこの支援先は、マクドナルドの顧客の多くを占める家族連れに間違いなく求められていることがわかった。