消費税8%引き上げの影響が深刻に表れた2014年の自動車マーケット。国内メーカー各社の新モデル投入もあまり活発とは言えず、作況は“やや不良”といったところだが、そんな中でもキラリと光る魅力的なクルマがいくつもお目見えした。
自動車ジャーナリストの井元康一郎氏に、2014年のベストカー3台をランク付けしてもらった。
●1位/ハスラー(スズキ)
軽乗用車「ハスラー」は、スズキの軽トールワゴンモデル「ワゴンR」をベースに、乗用車と本格SUVの中間的な性格の、いわゆるクロスオーバーSUVに仕立てたもので、技術的にはワゴンRに対してとくに目新しい部分はない。
ではどこが1位に挙げるほどいいところなのか。それはクルマ全体にあふれる遊び心だ。
デザインは大型の本格オフロードSUVをそのままミニチュアにしたような思い切ったもの。小さな車体で大型車のデザインをそれらしく表現するのは非常に難しいのだが、スズキのデザイナーはそれをやりきった。
小さいものが威風堂々を精一杯主張しているさまは、ちょうど園芸における盆栽のようなもので、微笑ましさを覚えさせられる。インテリアは華美さはなく、簡素なものだが、ダッシュボードやドアトリムなどにはめ込まれた光沢のあるカラーパネルがお洒落だったりと、演出が実に素晴らしい。
……と、項目を並べてみると、各社が最近よくやっている遊びの演出と大して変わらないように見える。ハスラーがライバルと異なっているのは、その遊び心の本物感だ。
日本の自動車メーカーは、技術レベルは世界有数なのだが、真面目さが裏目に出るのか、遊びの演出については正直、苦手分野だ。遊びをうたったモデルも少なからずあるものの、普段は遊びに興味もない商品企画担当者が「仕事だから一生懸命遊びを考えました!」といういかにもな感じが痛々しかったりする。
そのような中で、ハスラーの遊び心はホンモノだ。コクピットに座るだけで室内の小粋なデザインや窓からの視界が「さあどこへ出かけようか」と冒険に駆り立ててくる。タウンスピードでは乗り心地がよく、静粛性も高い。また、最低地上高が前輪駆動で180mm、4輪駆動で175mmと高く取られているため、林道や雪道の走破性も良好だった。
クルマ離れが進む昨今、クルマは単なる道具、移動手段という声をよく耳にするが、「道具や移動手段は楽しくなきゃ!」というスズキの強烈なアンチテーゼがハスラーにはある。2年前にデビューしたホンダの「N ONE」と並び、軽自動車界の輸入車的なポジションを確立した快作と言える。