というような憶測はともかく、毎月繰り返し読むことで名言が心により染みこんでくる的な効用を、私は欲していない。別に彼らと同化はしたくない。購入は断念。しかし、ここまで来ると、名言カレンダーの物欲スイッチを消す気になれず、さてどうしたものか。

 ネット上であれこれ見ていくと、名言カレンダー界に長年君臨してきたらしい大物の顔としばしば出くわす。天台宗の大僧正、瀬戸内寂聴だ。寂聴カレンダーは幾種類もあり、全370ページの『寂聴 日めくり暦』(2916円税込・日本音声保存)も毎年出版されている。2015年版で寂聴節を強く感じたのは、こんな名言だ。

〈7月13日 亡き人の魂は、愛する人が幸せになることを望んでいます。後ろめたく思う必要はありません。幸せになってください。〉

 きっとかなり深い名言なのだが、やっぱりこれはもう少しお歳をめした方に向けた言葉だろう。若輩の私にはまだ響かない。

 では、私の青春時代に身近だった、あの吟遊詩人のカレンダーはどうか。寂聴カレンダーと同じ会社が『さだまさし 一所懸命日めくり』(3780円税込・日本音声保存)を出していた。その中身は?

〈1月1日 あけましておめでとう 本当におめでとう!と心から思う歳になりました 毎日を一所懸命生きましょうね〉

 事例として公開されているのが、これ1つだけ。いい値段なのに開けてからのお楽しみ状態。それはつまり、まっさんファン向け限定モードということだ。私はそこまでまっさん好きではない。今でもいくつかの有名大学にはさだまさし研究会があるそうだが、もし大学生に生まれ変わってもたぶん自分はその研究会に入らない。

『ももいろクローバーZ日めくりカレンダー』(2700円税込・東京ニュース通信社)も2015年版を出しているが、ファンでもないのに『さだまさし 一所懸命日めくり』を買うということは、ファンでもないのに「ももクロ」グッズを買うのと本質が同じだ。やってはいけないことのような気がする。

 でも、そんなことを言ってたら、特定個人なり特定団体なりの名言で編んだ日めくりカレンダーは全て、その人やその団体のファンになってから買いなさいという話になってしまう。

 そして私は今、『名言・格言日めくりカレンダー』(1728円税込・高橋書店)の購入で迷っている。手帳に強い高橋書店が、一般公募の「手帳大賞」で受賞した作品や優秀な作品を、集めて編んで出版しているのだ。いわば無名人日めくり名言カレンダー。中身はかなり面白い。

 たとえば、〈5月24日 おまえ、1年前の悩み言える?〉とか、〈7月30日 疲れたときはなあ、緑のあるとこ行って「ぽよ~ん」としときっ!〉とか、〈12月7日 “人生の長さは個人差の一つ”だと思う。〉とか。バリエーションが豊かなので飽きもくるまい。

 だが、難がある。〈10月25日 本当にいいものはみんなタダでできているねー。〉というページがあるのだけれど、これはホントその通りで、たとえばツイッターをやっていると、この水準の名言が各種名言botからいくらでもタダで見られるのだ。

 ならば紙で名言を日めくる意味とは何か。そこにどんな喜びがあるのか。

 この悩みに「サバになれ!」と松岡修造は言うだろう。やはり『まいにち、修造!』を買うべきか。私は迷路に入ってしまった。

 そうこうするうちに、もう新年がやってきてしまうのだ。

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