当初、松屋の「増税分値上げ」はもっとも無難な守りの姿勢だった。ところが、肝心の販売戦略や商品開発において攻めの手立てを講じなかったことなどによる、ジリ貧感があったのだろうか。起死回生の手段として、本来の看板商品である「牛めし」のリニューアルに打って出た。松屋の場合、商品の構成では牛丼の比率は少ない一方、事業としては「松屋」ブランド頼みで牛めし定食事業の構成比が90%を超える。
ちなみに「はなまるうどん」などを抱える吉野家ホールディングスは牛丼事業の構成比が約5割。すき家のほかに「なか卯」「COCO’S」「はま寿司」など多様な外食産業や青果専門店も手がける、ゼンショーホールディングスの牛丼事業は4割を切る。
3大チェーンとも「薄利多売」であることに変わりはなく、いずれも安穏とした経営体制ではいられない。だがこの3社の動向から、日本が進むべき道のヒントは得られる。少なくともこれ以上のデフレは事実上不可能であること、そして複数の成長産業を冷徹に見極め、産業の選択肢としてテーブルに載せられる程度にまで育てること。その上で確固たる強みのあるサービスや商品に注力すること。いずれも本来なら当たり前のことだが、追い込まれるとその判断すら怪しくなる。
2014年の正月には横並びだった牛丼の価格や内容は、わずか1年で様変わりした。並盛り一杯290~380円の牛丼店の動向には、この国が進むべき道筋が隠されている。