2014年は高倉健と菅原文太という任侠映画の二大スターがこの世を去った。ノンフィクション作家の佐野眞一氏が、個人的な付き合いもあったという故・菅原文太についての思い出をつづった。
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2014年は、団塊の世代にとってショッキングな年だった。若い頃、血を熱くしてスクリーンに熱狂した任侠映画の二大スターが相次いで死去したからである。
高倉健が11月10日に他界し、それから20日も経たないうちに菅原文太が逝った。特に、いささか個人的付き合いのある菅原文太氏の死(享年81)には、衝撃を受けた。
文太さんと知り合ったのは、いまから7、8年前、彼がパーソナリティーをつとめるニッポン放送のトーク番組に出演したのが、きっかけだった。それ以来、何回かゲストとして招かれたが、その都度、映画から受ける印象とは違ってなかなか勉強熱心な人物だなと感心していた。
そもそも最初に出演したときのテーマが、宮本常一だったのには驚いた。失礼を承知で言えば、文太さんはああ見えて大変な読書家なのである。名門の仙台一高時代の一年後輩には故・井上ひさしがいて、交友をもっていた。
そんな関係もあって、文太さんが山梨県下で栽培する有機野菜を納める渋谷の高級ホテルに妻ともども招かれ、その野菜を使った料理を食べる昼食会に列席したこともあった。東日本大震災があった2011年の冬には、八ヶ岳高原の山小屋風の別荘に行って、二日がかりのインタビューをした。
この当時、菅原氏には小津安二郎の「東京物語」をリメイクした「東京家族」出演の話がきていた。市原悦子との老夫婦役である。だが、菅原氏はこの話を断った。