【著者に訊け】佐藤可士和氏/『今治タオル 奇跡の復活』/朝日新聞出版/1500円+税
基調としたのは〈白、青、赤の三色〉。白は〈空に浮かぶ雲〉、青は〈豊かな水〉、赤は〈昇りゆく太陽〉を表し、〈見る人にいかにストーリーを感じさせるかが、コミュニケーションのカギ〉と、佐藤可士和氏は書く。
そして今、今治の自然を象ったそのロゴマークを、私たちは様々な場面で見かける。手に取ったタオルの肌触りに「おやっ」と思うと、必ずこの三色のタグを片隅に発見するほどだ。
たかがタオル、と言うなかれ。氏が打ち出した〈安心・安全・高品質〉のストーリーは消費者を魅了し、120年の伝統を持つタオルの町に自信と誇りを取り戻させた。『今治タオル 奇跡の復活』は、自身初の地域ブランディングに挑んだ気鋭のクリエイターと、依頼主である四国タオル工業組合が、その再生経緯を各々の視点で綴った共著。不毛な価格競争に晒され、一時は壊滅の危機にあった今治復活の鍵は他でもない、〈白いタオル〉にあった!
ユニクロや楽天、近年では三井物産やヤンマー等のブランディングも手がけ、幼稚園やセブンカフェなどのプロデュースでも活躍。対象の本質を見極め、それを洗練された形にする佐藤氏の仕事に実は誠意や血が通い、生活感すら宿すことを、ベストセラー『佐藤可士和の超整理術』等の読者なら重々ご承知だろう。
「生活感とは嬉しい表現です。僕は自分が一社会人や家庭人として真っ当に生活してこそ、時代の空気や上滑りしない本当のニーズを、掴めると思っているので」
今治市やタオルに関しても、認識はごく普通だった。
「今治がタオルの産地だというのは昔習った気がする程度で、タオルの質も特に気にしてなかったんです。ところが今治のタオルを使ってみたら吸水性といい、肌触りといい、使い心地がまるで違うんですよ。その感動にも近い体験が依頼を引き受けた直接の動機で、僕はそれまで縁のなかった今治にこの時初めて〈リアリティ〉を持ち、〈自分事〉にできたとも言えます」
佐藤氏が依頼を引き受けた2006年当時、今治のタオル産業は〈JAPANブランド育成支援事業〉に採択されてはいたが、使える予算はごくわずか。しかも安い輸入品に市場を奪われる中、〈高い=売れない=価値がない〉という意識に産地ですら毒されきっていたという。
「僕は常々、〈「本質的価値」×「戦略的イメージコントロール」〉がブランディングには不可欠だと考えている。今治には高品質という絶対的な価値がありましたし、食の安全が問題になる中、なぜか毎日肌に触れるタオルを同列に語るチャンネルがないことに僕は気づいた。その突破口に据えたのが、色も柄もないからこそ質のよさが一目でわかる、白いタオルだったんです」