作家・村上春樹氏のネットでの文章問答が話題になっている。大学院生の「どうやったら文章が上手くなるか」という質問に、「基本的にはもって生まれたもの」という回答に、「厳しい」「身も蓋もない」とネットユーザーが上がった。どうやれば文章が上手くなるのか。フリーライター・神田憲行氏も考える。
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話題になったサイトは新潮社が運営する「村上さんのところ」。読者からのさまざまな質問に村上春樹氏が回答するという趣向で、くだんの質問と回答は今月16日にアップされた。大学院に通う女子学生からの「レポートや教授へのメールなどたくさん文章を書く立場だが、文章を書くのが苦手で、どうにか文章を書きやすくなりませんか」という趣旨の質問に対して、村上氏が
《文章を書くというのは、女の人を口説くのと一緒で、ある程度は練習でうまくなりますが》
と前置きしつつ、
《基本的にはもって生まれたもので決まります》
とはっきり言い切り、最後に、
《まあ、とにかくがんばってください》
と結んだ。最後の「まあ」という部分が突き放した印象があるのが、ネットでは「厳しい!」という感想を持つ人も多いようだ。しかし逆にいうと、村上春樹が「誰でも練習すれば僕ほど上手くなりますよ」と言う方が大嘘になると思うのだが。また、練習でうまくなった程度の「ある程度」の文章力で、大方の人は(小説で身を立てようという人以外は)、事足りると思う。それにしにても大学のレポートの相談をノーベル賞クラスの作家に相談できるのだから、いい時代になったものである。
もっと知りたいのは「練習」の中味だ。なにをどうやればいいのだろう。「女の人を口説くのと一緒」とあるから、女性(読者)の気持ちを考えて、トライ&エラーを繰り返せ、ということなのだろうか。
文章が上達するためには、たくさん読んでたくさん書け、というのは昔から言われていることである。その経験値が「もって生まれたもの」がない普通の人には必要だ。
だが書く経験は社会人になっても積むことはできるが、読むこと、とくに「読み方」について学校を卒業した後に修練を重ねることは難しい。そこで今月出た本をお勧めする。
「やりなおし高校国語–教科書で論理力・読解力を鍛える」(出口汪著・ちくま新書)だ。
出口氏について「カリスマ国語教師」程度の認識しかなかった私がこの本を手に取ったのは、丸山眞男の名論文「『である』ことと『する』こと」が教材に上げられていたからである。学生時代に感銘を受けたこの文章をもう一度、きちんと読み直してみたい欲求に駆られた。