「プロレスに勇気をもらっている」という受賞会見での発言が話題を呼んだ第152回直木賞作家・西加奈子氏(37)にとって、受賞作『サラバ!』(小学館刊)は19作目の小説にあたる。「書くこと」と真摯に向き合ってきた彼女を支え、成長させてきたものは何か。
作家生活10周年記念作品『サラバ!』は、まさに西加奈子氏の10年の歩みすべてが込められた作品だ。
「私は自分の本をあんまり読み返したりしないんですけど、文庫にする時に読んだりすると、自分が書いたとは思われへん文章に結構出会うんです。こんな表現よう思いついたなとか、なんでこの人こんなこと言ったんやろうとか。その時々の自分とか10年の変化が、そのまま作品の変化に表われているんやと思います」
西氏は1977年、イラン・テヘラン生まれ。父親の転勤で小学1~3年までをエジプト・カイロで暮らし、その後は大阪で育つ。
関西大学卒業後は様々なアルバイトをしながら小説を執筆。2004年、書き上げた作品を手に上京し、同年『あおい』でデビューを果たす。
当初、世田谷区・桜上水に借りた小さなアパートには押し入れにしか執筆スペースはなく、累計40万部突破のベストセラー『さくら』も、2013年に宮崎あおい主演で映画化された『きいろいゾウ』も、その“書斎”で生まれた。
「今は机で書いてますけど、最初はバイト先の喫茶店のカウンター、次が押し入れで、書く環境も10年間で様変わりしました。私、この時間にここで書くと決めてしまうと、逆に書けへんかった時に罪悪感が残るんですね。意外にマジメやから(笑い)。だから最近は外で書く練習もしていて、10分でもあればどこででも書くことにしてるんです」
イラン→大阪→エジプト→大阪→そして東京へと、受賞作『サラバ!』の主人公〈圷歩(あくつ・あゆむ)〉の軌跡はそのまま西氏の成育歴と重なる。1979年のイラン革命や2011年の「アラブの春」、阪神淡路大震災や東日本大震災にも遭遇する彼は、西氏と同じ1977年生まれ。その歩の成長過程に欠かせない要素として描かれているのが、本や映画や音楽である。