映画『アナと雪の女王』の大ヒットで日本でも注目を浴びることが多くなったミュージカル俳優。日本のミュージカル俳優の草分け的存在である宝田明は、外国人を演じることが多いミュージカルでも違和感なく世界に入り込めていた。なぜ、自然に感じられたのかついて宝田明が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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宝田明の俳優キャリアで重要な位置を占めているのが、ミュージカルだ。近年もなお舞台に立ち続け、第一人者として活躍している。その最初は、1964年の『アニーよ銃をとれ』だ。
「美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみの『三人娘』が東宝の映画によく出ていて、僕がいつも共演していました。そのうちにチエミが『お兄ちゃんね、ミュージカルを一緒にやってくれない?』と言うんです。『あなた、歌えるから』と。僕は当時、自分の映画の主題歌をかなり歌っていましたからね。
それからはチエミと一緒になってボイストレーニングに通いました。アメリカのミュージカルの場合、主役の男性はハイバリトンかテナーなんですね。僕はオクターブ上の『ファ』ぐらいまでは楽に出せましたから、その音域を大体カバーリングできました。
幕が開けたら、そこが新天地でした。映画は演技してからしばらくしないと映画館にかかりませんが、舞台はその日その日の幕が開く。しかもミュージカルは三時間強、生のオーケストラを前にして観客の前で直に演じるわけですからね。なんとも心地よい快感でした。
ちょうど映画の状況が落ちていった時期でもあったので、映画からフェードアウトしながら舞台に立つようにしていったんです」
ミュージカルでは、日本人が西洋人を演じる。宝田の芝居はいつもケレン味に溢れていて、違和感なく舞台の世界に入り込むことができる。