投げ技あり、パンチやキックありのスピーディーな熱戦が繰り広げられるプロレスの聖地・後楽園ホール(東京・文京区)。
いま観客席で目立つのは、コアな男性ファンではなく若い女性たちである。ボンボンで飾り付けたレスラーの名前入りうちわを振りかざす様子は、さながらアイドルのコンサートのようだ。お目当てと思しき茶髪のイケメンレスラーが関節技を決められて苦悶の表情を浮かべると、「キャー!」と悲鳴が上がる。
しかしそのイケメンは見事な逆転勝利を収めた。レフェリーに手を上げられると、観客席からは黄色い声とともに拍手喝采。花道を引き揚げるレスラーを見送るリングサイドでは、感激のあまり涙を浮かべる女性客の姿もあった。
最近のプロレス会場は20~30代を中心に女性客が殺到している。彼女たちプロレス好き女子は腐女子(美少年同士の恋愛を描いた漫画やアニメなどの作品を好む女性のこと)になぞらえて「プ女子」と呼ばれる。新日本プロレスリング(新日)の実況を担当するフリーアナウンサーの清野茂樹氏が語る。
「プ女子は2年前から増えてきました。年齢層は30代が多く、2~3人のグループで来る女性が多いですね」
現在、新日のオフィシャルファンクラブ会員のうち4割を女性会員が占め、対前年度比約120%増だという。
別団体でも増殖していて、例えばDDTプロレスリングでは、「会場の男女比は半々。レスラーのサイン会や撮影会に女性が殺到しています」(広報)という。
プ女子を公言する有名人も少なくない。タレントでは眞鍋かをりや二階堂ふみ。そして先ごろ直木賞を受賞した作家・西加奈子氏もプロレス好きとして知られる。西氏は受賞会見でプロレス好きを記者から問われ、「むちゃくちゃ勇気をいただいています」と熱弁を振るって話題になった。
また、新日本プロレスが作った女性ファン専用のコミュニティプロジェクト「もえプロ女子部」には、エッセイストの能町みね子氏や犬山紙子氏などの文化人らも名を連ねている。
男たちの“聖域”になぜ、女性が足を踏み入れるようになったのか。その背景には女の“カッコイイ”基準の変化があるようだ。