新年のスポーツシーンを彩る箱根駅伝。91回目となる今年、青山学院大が史上初めて10時間50分を切り、創部97年目にして初優勝を遂げた。チームを率いて11年目の原晋監督(47)は選手としての現役時代、引退後のサラリーマン時代を通じ、数々の挫折と挑戦を繰り返してきた人物。箱根初優勝までの道のりに迫った。
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記録的な快挙を成し遂げた選手たちに、箱根につき物の涙や悲壮感はなかった。「勝っても負けても笑って終われるように走った」。そんなコメントも聞かれた。明るく、楽しく、爽やかに箱根路を駆け抜けた青学。象徴的な作戦名がある。ワクワク大作戦──。戦前、原晋監督自らが発案し、選手に指示しただけでなく、マスコミにも公表したものだ。
──作戦、見事に嵌まりましたね。
「部員たちは120%力を発揮して、私の想像を遥かに超えてました。日本テレビの社長さんが新年の挨拶で『今年はワクワクでいきましょう』と使ってくれたり、周囲でも流行ってますね。多分、この言葉って皆を前向きにするんですよ……目指せ、流行語大賞!(笑)」
──時期が早かったかも。
「そうなんです。復活させるために、パート2を早目に仕掛けるかな」
──そのユニークな作戦、真意を。
「昨年の11月からチーム状態が非常に良かったんです。選手エントリーの12月10日に向けて、毎日、時間さえあれば仮想の区間配置を考えていたんですが、何パターンも考えられる。実際に走るのは10人ですが、20人はメンバーに入れる、史上最高の層の厚さがあった。だからまずは、自分がワクワクしたんです。
もう一つは、12月に入ってから部員たちの間で『優勝』という言葉が先行し出して、プレッシャーが掛かってるなと。その緊張感を解す意味もありました。優勝というのはあくまで結果としてついてくるもので、優勝ありきで進めたら大事な過程の取り組みが疎かになりますからね。
あともう一つ、多くの青学ファンの方々にも一緒にワクワクして欲しいと。つまり、三位一体のワクワク大作戦なんです。当初、部員たちは、監督、何を変なこと言ってるんだって感じでしたけど(笑)」
──ただ、陸上界からは批判的な見方も感じていた。
「これまでの陸上界の常識からすれば、明るく楽しく爽やかにというのはタブーでしょうね。命懸けで1秒を削り出せ、というような精神論が主流ですから。ワクワクなんて、何をふざけたこと言ってるんだ、チャラいこと言ってるなよ、と。
でも、それは表面しか見ていない。我々はチャラいだけじゃなしに、裏では泥臭いことをやっています。喩えれば、宝塚音楽学校。表舞台では華やかに舞っているけど、根底には厳しい躾や規律があり、競争も激しい」