「通常、缶コーヒーなら120円前後、緑茶は150円前後と、誰が決めたわけでもないのに値段は固まっています。さらに競争が激化する中、低価格で売られることも多い現状を、放置していいのかという危機感がありました。飲料市場の現実は、私たちメーカーにとって利益が少ないだけでなく、お客様にとっても選択肢があまりに限られている、と考えたわけです」
「別格」がユニークなのは、味や値段だけではない。「カテゴリーを横断するブランド」という点も新鮮だ。
「良い商品を作っても一点ずつ出すと埋もれてしまいます。そこで4種類をまとめて発表し、店頭に一緒に並べていただく提案によって『登場感』を際立たせました」
たしかに「登場感」はあった。金屏風を連想させるデザインは、単なる思いつきではなかった。屏風の構造というものをご存じだろうか。複数の面の数によって「六曲」「四曲」などと呼ばれることを。「別格」とはまさしく、四種類の飲料をずらりと一か所に「四曲屏風」のごとくディスプレーする、その新鮮さとインパクトをもって激戦の売り場の棚を奪取したのだ。
ブランドの構築には社内外のスタッフがチームを組んだ。アートディレクター・佐藤可士和氏も一員となり、屏風や市松文様など「和の伝統」と「現代」が溶け合うイメージが創出されていった。
一昔前まで、イノベーションといえば「技術革新」と訳されていたが、今はそうではない。「新しい結合」「新機軸の導入」「新しい価値を生み出す行為」こそ、イノベーションの意味だと言われるようになった。
200円缶飲料という新市場を切り拓く冒険に出た「別格」。この商品の最も興味深い点は、高価格という「新しい価値」が、他のジャンルにも伝播していきそうな気配を感じることだろう。
※SAPIO2015年3月号