2月1日からプロ野球キャンプがスタートし、来月からセンバツも始まる。いよいよ球春到来だ。それにあわせて野球を題材にした映画が3本も公開されている。その見どころについて、高校野球取材歴20年のフリーライター・神田憲行氏が解説する。
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野球が題材の映画が同時に3本も封切られるなんて珍しいことではないだろうか。映画はふだんテレビとDVDで楽しむ派だが、いそいそいと映画館に足を運んで鑑賞してきた。「箸が転んでも涙ぐむ51歳」「国境なき涙腺」の私が、泣きどころと野球濃度に絞って解説したい。
「KANO 1931海の向こうの甲子園」(マー・ジーシアン監督)
日本統治下にあった台湾の嘉義農林が、1931(昭和6)年に夏の甲子園で準優勝したの史実を踏まえ、脚色した作品だ。
台湾で大きな話題になり満を持しての日本上映、期待に違わぬ傑作である。アジアの野球映画では「ダイナマイトどんどん」(岡本喜八監督)と「爆烈野球団団」(キム・ヒョンソク監督、韓国)の2本がベストだと考えていたが、これらに肩を並べる、いやベストワンだと思う。
3時間を超える長丁場の作品だが、圧倒的な野球のプレーに飽きることがない。野球映画で野球ファンを萎えさせる大きな原因は肝心のプレーがへなちょこだったりするわけだが、本作品は投手役が実際にU18の台湾代表選手だったり、野球経験者を役者に起用している。力感溢れる投球フォーム(本職は投手ではないらしいのだが)、ダブルプレーのシーンなど実際に野球の試合を観ているような錯覚に陥る。試合のシーンもたっぷりあり、結果はわかっているのにハラハラさせられ、いつの間にか嘉農に声援を送っている自分がいた。
印象に残る台詞もあった。最後の試合後、集まった選手に監督役の永瀬正敏がかける言葉がある。朝日新聞に載った永瀬のインタビュー記事を読むと、この台詞は台本に用意されたものではなくて、彼が監督にお願いして自分で考えたそうだ。そして使ったのは永瀬がデビューしたときの監督、故・相米慎二氏から掛けられた言葉で、永瀬はこの言葉に号泣したという。
本作でも雨で撮影中止になっても野球の練習を続ける台湾の若い俳優たちの姿を見て、この言葉を心から掛けた。文字にするとありふれたそっけない言葉になるが、映画の文脈の中では心臓を鷲づかみにされる。実際、俳優たちも演技を超えて泣いたそうだ。ぜひ劇場で確認していただきたい。
泣いた回数……3回(うち号泣1回)
野球濃度……100%