【著者に訊け】国枝昌樹氏/『イスラム国の正体』/朝日新書/760円+税
日本人人質二人を拘束し、二人とも殺害という蛮行に及んだ「イスラム国」。昨年6月29日、「建国」を一方的に宣言し、「首都」をシリア北部ラッカに置く、イスラム教スンニ派の過激派武装組織である。イラク出身のイスラム導師、アブ・バクル・バグダディを最高指導者「カリフ」と仰ぎ、財務・広報等の各大臣が構成する「評議会」や「通貨」まで用意するという、自称「国家」だ。
その、何が脅威なのかを、元在シリア特命全権大使・国枝昌樹氏は、本書『イスラム国の正体』で多角的に検証。目下、イスラム国に関しては各メディアがこぞって取り上げるが、「的外れな報道や分析も結構多い」と氏は指摘する。
エジプトやイラクなど、氏の10年余に及ぶ中東経験からすれば、まず「イスラム国≠イスラム」であり、一口に武装組織と言っても様々な思惑が絡むと言う。
「日本では、こうなって初めてイスラム社会に関心を持つ人も多く、複雑な思い」
と、国枝氏は神妙に語る。
「私は2012年6月に『シリア アサド政権の40年史』を、昨年は『報道されない中東の真実』を執筆しましたが、日本及び各国で報道されることと現場の実態とが、余りに乖離していることへの疑問が原動力になりました。
例えば2010年末~2011年2月にチュニジア、エジプト、リビアへ伝播した『アラブの春』でも、民主化を求める若者が悪しき独裁政権を倒した快挙だと、メディアは一面的に報じた。確かにエジプトやチュニジアではそうでも、NATO軍支援の下、カダフィを倒したリビアでは今も反体制派内で抗争が続き、内戦状態です。つまり民主化=問題解決ではない地域もあり、独裁政権さえ倒せばうまくいくなど〈ナイーブな夢物語〉」
シリアでも2011年3月以来の民衆蜂起がアサド政権を窮地に追い込み、国際社会の反体制派支持や経済制裁もあって孤立を深める中、各種武装勢力が入り乱れる〈権力の空白〉を生んだ。また、イラクでも2011年12月のアメリカ軍完全撤退以来、国内は再び混乱状況に陥り、その空白に乗じて台頭したのが、イスラム国である。