2月2日、韓国の李明博・前大統領の回顧録『大統領の時間』が発売された。798ページの分厚さで2万8000ウォン(約3000円)と強気の価格設定ながら初版1万5000部で、発売後すぐに増刷が決まった。
その内容の一部は、李氏が2012年8月に「竹島上陸」したことを自画自賛するなど、今日の冷え切った日韓関係につながった自身の行為を“偉業”として紹介しているような記述がある。
慰安婦問題に関しても自身がいかに日本を厳しく追及したかをアピールしている。回顧録では日韓交渉の裏側をこう明かした。
〈2012年11月18日からのカンボジア・プノンペンでの東アジア首脳会議(EAS)の際に韓日首脳会談を開き、慰安婦問題の最終協議を予定していた。野田(佳彦首相。当時)が直接、慰安婦のおばあさんたちに手紙を送って謝り、日本政府の予算でおばあさんたちへの被害補償をするという内容だった〉
ところがその後に野田首相が衆院解散に踏み切り、この解決案が潰れたという内容が書かれている。
日本は1965年の日韓基本条約と日韓請求権協定の締結で、13億ドル(無償・有償含む)の経済支援を行ない、日本に対する個人の請求権は消失した(韓国政府に移った)。元慰安婦に賠償をするとなれば、その前提を放棄することになり、際限なく補償要求が広がりかねない。
回顧録の記述が事実かを野田前首相に確認すると、「2012年11月に李大統領と首脳会談の予定はなかった。水面下で様々なやり取りがあったが(回顧録の記述は)自分が承知している内容とはかなり違いがある」との回答だった。慰安婦問題に詳しい東京基督教大学の西岡力教授はいう。
「李前大統領の話は、当時の佐々江賢一郎外務事務次官が提示した、いわゆる『佐々江案』で、まったくの作り話というわけではない。しかし、日本の政府予算からの資金拠出がどのような名目になるかで韓国の慰安婦支援団体も反発しかねない話だから、合意間近だったとは思えない」