圧倒的な経済力と狡猾な宣伝工作により、中国は、米国に「太平洋二分論」を認めさせるまでに影響力を増している。日本こそ中国に対峙できる唯一の国そうした意見で一致をみるジャーナリストの櫻井よしこ氏と京都大学名誉教授の中西輝政氏が、「対中外交の進路」を語った。
中西:昨年11月の北京APECの日中首脳会談では、安倍晋三首相と握手する習近平主席の仏頂面を見て、失礼じゃないか、と感じた方も大勢いたでしょう。バカにされたのだから日本の負けだ、と。
しかしそれは大きな間違いです。ホスト国として、習近平主席は首脳会談をせざるをえない状況に追い込まれていました。だからといって中国国民の前で、笑顔を見せて日本に対する強硬な姿勢を崩すわけにもいきません。苦肉の策があの仏頂面の握手だったわけです。
習近平政権誕生から始まった日中対立は、昨年の11月までを第一ラウンドとすると、日本が勝利したと私は考えます。
櫻井:にこやかな安倍首相とそっぽを向いた習近平主席。世界へ向けたイメージという面で日本の大勝利でしたね。
中西:一昨年から中国は日本政府に、日中首脳会談の条件を2つ突きつけていました。1つは靖国神社を参拝しないこと。もう1つは尖閣諸島を巡る領土争いを認めること。
会談の前に〈日中関係改善に向けた話合い〉と題する合意文書が交わされたのですが、縦横斜め、どこからどう読んでも日本はこの2つの条件を認めていません。にもかかわらず習近平主席は会談に応じました。しかも合意文書には、東シナ海において〈危機管理メカニズムを構築〉するとまで記されています。これで表面的にしろ、中国はいままでのように軍事的圧力をかけることは難しくなりました。
櫻井:安倍首相が「2つの条件は絶対に飲んではならない。ダメなら首脳会談がなくてもいい」と指示を出されたのですか。
中西:その通りです。信憑性がどの程度かは確認できませんが、ある筋の情報ではAPECの直前に中国側に次のような話が伝わったそうです。
「首脳会談に応じなければ、各国首脳が出席する全体会議で、安倍首相が『国際的な平和と繁栄の基礎を脅かす行動に出る中国の試みには断固反対する』と演説する」と。