TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への加盟は国益をはっきり左右する大問題だ。国民の生活を脅かしかねない懸念について、元外務省国際情報局長の孫崎享氏が指摘する。
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「関税の聖域は守る!」と宣言してTPP交渉に臨んだ安倍政権だが、TPPの最大の問題は、関税の撤廃ではない。TPPに加盟すれば、非関税障壁の撤廃も迫られることになる。もっとも危惧されるのは、日本が世界に誇る健康保険制度が崩壊する危険があることだ。
アメリカの医療系企業が日本で病院を建て、超高額な医療サービスを始めたとしよう。現在、日本では、効果が未実証の最先端医療に対しては公的な健康保険が適用されず、全額自己負担の自由診療になっているが、もしアメリカの事業者が「我々の提供する最先端医療に保険を適用させないのは、非関税障壁だ」と訴えたらどうなるのか。
現在、TPP交渉において「ISDS(またはISD)条項」という投資家を保護する条項の導入が検討されている。これは、投資家が投資先の国の法律などにより不利益を被ったと認識した場合に、仲裁機関である国際投資紛争解決センター(ICSID)に提訴し、受けた損害について投資先国政府に対し賠償を求めることができる制度である。ICSIDの採決には強制力があり、公共の利益は考慮されず、「投資家がどれほど被害を被ったか」という観点だけで審議される。
実際にICSIDに提訴された案件としては、こんな事例がある。メキシコに進出したアメリカの産廃処理業者が、産廃の埋め立て地を建設したが、有害物質が流出したため、地方自治体が建設許可を取り消した。それを不服として事業者が提訴し、訴えが認められ、メキシコ政府は多額の賠償金を支払わされた。