1969年の大河ドラマ『天と地と』で主演した石坂浩二は、殺到する時代劇の出演依頼を断り、TBSドラマ『ありがとう』でヒロインの恋人役を演じた。大人気番組となったホームドラマ出演で知った演じる難しさについて語った石坂の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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石坂浩二は1969年のNHK大河ドラマ『天と地と』に主演、上杉謙信に扮した。
「これは非常にプレッシャーがありましたね。というのも、前の年の大河が不調だったらしく、『これが最後になるかもしれない』とまず言われたんですよ。『もし視聴率が悪かったら、これで大河が打ち切りだ』と。記者会見でも記者の方たちにそればかり言われてムカムカしてきました。
父親役を滝沢修さんが演じていて、ちょうど滝沢さんが亡くなる場面と、僕が初めて登場する場面が重なっていたのでスタジオでお会いすることはなかったのですが、稽古場でご一緒になりましてね。『俺はそろそろ死ぬからな。お前、しっかりやれよ』って、またプレッシャーをかけてくるんですよ。
そういうプレッシャーの中でなんとかやらなければ、という意気込みで臨んだ作品です」
石坂は1970年に始まるTBSドラマ『ありがとう』に、水前寺清子扮するヒロインの恋人役で出演している。石井ふく子プロデューサー、平岩弓枝脚本による本作は、視聴率50%を超える大人気番組となった。
「『天と地と』をやった後で時代劇の依頼が目茶苦茶来たんですよ。でも、僕は専門職の俳優になりたくなかったから、全て断って『ありがとう』に出ました。上杉謙信とは正反対の役ですから、面白いと思ったんです。
最初の頃は評論家や新聞記者に散々に言われました。物凄い視聴率を出した次の日の新聞では『世も末だ』とか書かれましたから。それでも平岩さんは『ホームドラマと言ってしまうと簡単に思えるけど、人間が毎日生きていることは大変なことなんだと分かってもらえればいいのよ』とおっしゃっていました。