このところの大幅な原油安は消費増税と円安政策による物価上昇で苦しめられている国民生活にとって明らかにプラスになっている。たとえば、家庭用の灯油(18リットル缶)は1800円台から1300円台に値下がりした。故に、灯油の購入額が全国1位の北海道では、「月額数千円安くなった」という声も聞かれる。ほかにも、気仙沼の漁協関係者からは、重油が安くなったため、出漁回数が増やせると安堵の声も出た。
しかし、なぜか政府からは、原油安を敵視する発言が相次いでいる。麻生太郎・副総理兼財務相は「原油安は基本的には良いことだが、インフレ目標にはマイナス要素であることは確かだ」といい、甘利明・経済再生担当相は「(原油安に伴う)世界経済にとってのマイナスを日本経済も受ける」と語った。
中でも困っているのが日銀の黒田東彦・総裁だ。日銀は政府と「2%インフレ」の目標を設定し、アベノミクス第一の矢として、「異次元の金融緩和」で為替を円安に誘導してきた。
しかし、円安で輸出企業は利益をあげて株価は上昇したものの、国内生産は増えず、下請けや関連企業に効果が波及しない。むしろ円安でも貿易赤字が拡大している危機的状況だ。2014年の貿易赤字は過去最大の10兆3637億円となり、経常収支はプラザ合意(1985年)以来最少(2.6兆円)だった。安倍首相と黒田総裁の「アベクロ理論」は完全に時代遅れのアナクロ理論なのである。
そのうえ、昨年4月の消費増税による消費の落ち込みが追い討ちをかけ、ついにGDP成長はマイナスに落ち込んだ。
それでも間違いを認めようとしないのはアベノミクスを礼賛してきた大メディアも同じだ。イラクやウクライナ紛争で原油が高騰した昨年7月、〈原油高の影響抑える対策を官民で急げ〉(7月6日付、日経社説)と原油高を悪玉にしていたが、現在は〈原油安の余波 資源関連企業の業績懸念強まる〉(1月14日付、日経)と宗旨替えし、毎日新聞も〈原油「ここまで下落とは」…関連企業の業績悪化に苦悩〉(2月5日)と“原油安悪玉論”を煽っている。