ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏。近作のドラマで独特の存在感を発揮している80歳の怪優とは、かつて同じ空間を共有したことがあったという。
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出汁をとる時も煮物にも……いろいろな料理に使える。噛んでも噛んでも味が消えず、じわじわっとまた味が滲み出してくる。そんな、乾物のような魅力。最近、ドラマでよく見かける一古老のことです。
痩せた首筋、眉間に刻まれたシワ、顔にかかる白髪、飄々とした語り口。つい、仙人を連想してしまう。その役者の名は、品川徹。1935年生まれというから齢80を迎えられるお方です。
注目のドラマ『だから荒野』(NHKBS日曜日午後10時)で、長崎の被爆体験を語り続ける孤独な老人を怪演しています。
抑揚をおさえた口調。みだりに感情を出さない顔。安易に動かさない身体。その人のまわりに漂う、静けさ。存在が静かだからよけいに、人物が持つ歴史や重ねてきた体験について、思いを馳せたくなる。想像力をかきたてられる。奥行きを感じる。人間はぺらぺらと口先で説明できることだけで生きてはいない--当り前だけれど、なかなか最近見ることのできなくなった人物像が、そこに浮き上がる。
印象に残る品川氏の演技。いぶし銀のような存在感。実は最近しばしばテレビ画面にお目見えしています。大河ドラマ『花燃ゆ』では、野山獄囚人の古参・大深虎之丞役。『梅ちゃん先生』『MOZU』『金田一少年の事件簿』『クロコーチ』など人気ドラマに登場し、映画の出演も数多い。
昨今のテレビ文化の中にあって、噛んでも噛んでも味が出てくる、乾物的存在感。簡単には消費され尽くされない品川氏の凄みは、どこに由来しているのでしょうか?
実は品川氏はアングラ劇団の出身。1970~80年代に注目を集めた劇団「転形劇場」の一員だった履歴を持っています。何を隠そう、今ではテレビで人気の大杉蓮氏もメンバーの一人だった異色の劇団です。
30年ほど前、私自身もその舞台に足を運びました。こう言っては何ですが、まったくもって大衆ウケする舞台ではなかった。アバンギャルド。独創的。アーティスティック。なぜなら、2時間を超える舞台に、台詞がなかったのですから。
時間の流れ方も、日常とはまったく違っていた。役者が1メートル前進するのに、3分も5分もかかる。鍛え上げられた筋肉がなければ、決して演じられないスローモーションのような動作。
たとえば代表作『水の駅』では、舞台の上に、ただ一筋の水が糸のように落ちていました。そこへ役者が手を差し延べる。手のひらに水を受ける。その瞬間。しーん。水音は消え、ただただ沈黙だけが暗がりに広がっていく……。
「しーん」を表現するために創られたような芝居。台詞も動きも究極の引き算。まるで、今の情報氾濫社会と正反対のような静謐な世界。そんな前衛的舞台の経験が、今の品川さんの中に結晶しているのかもしれません。