人が太るのは、〈消費エネルギーを摂取エネルギーが上回った分が体脂肪として体に蓄積される〉からというのが常識だった。
メタボが気になる人たちは食事制限して摂取エネルギーを減らしたり、ウォーキングなどの運動で消費エネルギーを増やしたりしている。
それはそれで正しいのだが、ここに来て「肥満の原因はそれだけではない」とする研究報告が注目を集めている。腸内に住む「デブ菌」と呼ぶべき細菌が肥満を引き起こしているという説だ。
アメリカの研究報告の概要を紹介した医療・健康情報提供サイト『Medエッジ』編集長・星良孝氏はこう語る。
「2月に入って肥満を引き起こす“デブ菌”の存在を示す研究が発表されました。これは『セルメタボリズム』という米国の一流医学誌に掲載された論文で、医学界で大きな反響を呼んでいます」
デブ菌の存在は「糞便移植」という耳慣れない治療の経過で明るみに出た。これは腸内の細菌バランスを崩し大腸炎を起こす感染症の治療法で、患者の腸内環境を健全にするために、健康な人の糞便抽出物を患者の腸内に注入するというものだ。
米東部ロードアイランド州ニューポート病院の報告によれば、注目されたのは32歳の女性患者。肥満体型の16歳の娘から糞便の提供を受け、感染症の治療は無事に成功したのだが、患者はなぜかどんどん太ってしまった。
32歳女性は治療前、体重62kg、肥満度を示すBMI(ボディマス指数のことで、体重を身長の二乗で割ることで求められる。日本では25以上が肥満とされる)は26で安定していた。
それが糞便移植から16か月後には体重が15.4kgも増え、BMIは34に急上昇していた。女性は医師の指導のもと食事制限と運動プログラムに取り組んだがやせられず、移植3年後には80kg以上、BMI34.5まで増えてそのまま定着してしまった。
論文はそれが肥満体型の娘の腸内細菌によるものと考えられるとし、「糞便移植には太りすぎていない提供者を選ぶことを推奨する」と結ばれている。