役者・石坂浩二の当たり役として思い浮かべるもののひとつに、将軍や大学教授、社長など権力者の役がある。そういった権力をもつ者を演じる時に必ずしていることについて石坂が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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石坂浩二は大河ドラマでは『元禄太平記』の柳沢吉保、『草燃える』の源頼朝、近年では『白い巨塔』の東教授や映画『沈まぬ太陽』の航空会社社長など、権力者の役を演じることが多い。
「権力者を演じる時は、彼らが挫折する場所を探すようにしています。観る方は気付かなくとも、演じながら権力者の孤独みたいなものを味わってみたいんですよ。しかも権力のあり方が違うから、同じ権力者でもそれぞれに演じる面白さがあります。
吉保も頼朝も、最後は何一つ思い通りに行っていないように思えます。特に頼朝は、鎌倉に幕府は作ったものの、京都に帰りたいという気持ちが凄くあったんだと思うんです。それを義経に先にやられたことが許せなかった。京都に帰れないまま鎌倉で死んでいくことは、やはり辛いんですよ。だから、反転して天皇家と対峙していく気持ちが強くなっていった。
『白い巨塔』はまさに挫折していく権力者ですし、その挫折から立ち上がっていくのが素晴らしい。
そうやって準備段階で役のことを知っていくと、演じる時の安心感になるんです。第一声を発する時に『俺はコイツを全て知っているぞ』と言い聞かせていないと不安になる。これをプロセス的にやっておくと、後は自由にやることができます。
十七代目の中村勘三郎さんからも、そういうことを教わりました。『役を作れば、セリフはひとりでに出てくるんだよ』と。勘三郎さんは『セリフは覚えなくていい』とおっしゃっていました。実際、立ち稽古の段階になっても、プロンプターがセリフを全て言うんですよ。ところが本番になったらちゃんと出てくる。そういうのを掴むのがお上手な方でした」