日本では「コレステロールは体に悪い」というのが“常識”になっている。
専門医からなる日本動脈硬化学会は、脂質異常症(血中にコレステロールや中性脂肪が多すぎる病気)の人に対して食事療法を推奨。同学会がまとめた「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(2012年版)では、食事からのコレステロール摂取を「1日200mg以下」に制限している。
この摂取制限は非常に厳しい。鶏卵1個(コレステロール含有量252mg)、鶏レバー1人前60g(同222mg)でもアウトとなる。2007年版の同ガイドラインでは基準は1日300mg(治療初期の場合)までOKだったから、この数年で大幅に厳格化が進んだことになる。
だが、日本での厳格化の流れを真っ向から否定する見解がアメリカで示された。「食事からのコレステロール摂取を制限しても意味がない」というのである。
2月19日、米厚生省と農務省が5年ごとに改訂する「米国人のための食生活ガイドライン」作成に向けた栄養、医療、公衆衛生の専門家からなる諮問委員会の報告書が公表され、「コレステロールは過剰摂取を懸念すべき栄養素とは見なさない」との見解が明らかになった。
アメリカでコレステロール摂取制限が撤廃された背景には、かつて医学界で信じられていた「コレステロールは悪」という考えを見直す大きな流れがある。
大前提として、健康診断などで示されるコレステロールの数値を下げても意味がないとする新たな潮流が生まれている。つまり、「コレステロール悪玉論」自体が間違いだった可能性が高まっているというわけだ。
米国心臓病学会(ACC)や米国心臓協会(AHA)などは、「血中コレステロールが高いと動脈硬化が進む」という仮説を長く支持してきた。
ところが、2013年にACCとAHAが策定した新ガイドラインでは「『悪玉』と呼ばれているLDLコレステロールを下げても心筋梗塞などの心血管疾患が治療・改善される根拠はない」として、管理目標値を撤廃したのである。これまでの方針は完全に覆された。
一方、日本では摂取制限と同様に基準値を巡っても対立がある。