日本ではコレステロールは「悪者」と広く認識され、基準値をもとに指導や治療が行なわれるが、その根拠は実は我々が思うほど確固たるものではない。
専門医からなる日本動脈硬化学会は、脂質異常症(血中にコレステロールや中性脂肪が多すぎる病気)の人に対して食事療法を推奨。同学会がまとめた「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(2012年版)では、食事からのコレステロール摂取を「1日200mg以下」に制限している。
だが、日本での厳格化の流れを真っ向から否定する見解がアメリカで示された。
2月19日、米厚生省と農務省が5年ごとに改訂する「米国人のための食生活ガイドライン」作成に向けた栄養、医療、公衆衛生の専門家からなる諮問委員会の報告書が公表され、「コレステロールは過剰摂取を懸念すべき栄養素とは見なさない」との見解が明らかになった。
日本の専門医の学会だけが、摂取制限を維持している理由を動脈硬化学会に問うたが、「ガイドラインを精読してください」という木で鼻をくくったような答えしか得られなかった。
なぜ基準厳格派は譲らないのか。そこには、「血圧147論争」と同じ構図が透けて見える。
専門医などからなる日本高血圧学会は上(収縮期血圧)が130以上、下(拡張期血圧)が85以上だと「血圧が高い」とする基準値を定め、それが健康診断などで用いられている。その一方、日本人間ドック学会はドックを受診した約150万人のデータを解析し、上が147、下は94までは健康とする新しい基準範囲を昨年発表した。
本誌はいち早く2つの基準の齟齬を報じ(2014年5月2日号)、他メディアが追随して議論が沸騰した。
基準を厳格化して“病気”と診断される人が増えれば、医者も必要とされるし、製薬会社の売り上げも伸びる。東海大学名誉教授の大櫛陽一・大櫛医学情報研究所長がいう。
「製薬会社から専門医への巨額の寄付金があります。一昨年には高血圧治療薬を巡り製薬会社と薬の効果を試験する研究者が金銭的に深く結びついていることが発覚し社会問題化しました。
コレステロール低下薬についてもEUが2004年に治験条件を厳しくし、製薬会社と結びつきのないチームが情報開示しながら治験をやり直したところ、従来コレステロールを下げる必要があるとされていた患者でも薬の効果が出ないとの結果が出たケースがある」