ここまで読んだ若いサラリーマンは「1000万円もないから当面は安心だ」と思うかもしれない。しかし、それは大間違いだ。今回の法案にはもう一つの「残業代ゼロ」の隠し球も隠されている。
「企画業務型裁量労働制」の拡大だ。この制度は1日の労働時間を9時間に設定すれば、8時間を超える1時間分の手当は出るが、9時間を超えて働いても残業代が出ない仕組みだ(ただし、深夜・休日労働は割増賃金を支払う)。
知らない人も多いかもしれない。なぜなら実際に導入している企業は0.8%にすぎない。簡単に言えば、ブラック企業で問題になっている基本給に残業代を組み込む「固定(定額)残業代制」を法律で制度化したものといえばわかりやすいだろう。
導入企業が少ないのは、対象業務が「企画・立案・調査・分析」業務に限られている上に、労基署への報告義務など手続きが煩雑であるからだ。それを今回の改正では手続きを緩和し、さらに対象業務を増やしたのだ。追加業務は法律案要綱では以下の2つだ。
(1)課題解決型提案営業
(2)事業の運営に関する事項について企画、立案調査および分析を行い、その成果を活用して裁量的にPDCA(生産・品質管理を円滑に進める手法)を回す業務
課題解決型提案営業とは「ソリューション営業」のこと。お客のニーズを聞いてそれにふさわしい商品やサービスを販売する営業職のことだ。今はどんな企業でもソリューション営業をしなければ物が売れない時代だ。言ってみれば、店頭販売や飛び込み販売、ルートセールス以外の営業はほとんどが対象になることになる。
(2)は抽象的でわかりにくいが営業以外の事務系業務のことだ。審議会の報告書では「個別の製造業務や備品等の物品購入業務、庶務経理業務」は対象にならないとしている。一般にいうブルーカラーや定型業務は入らないということたが、それ以外の業務はほとんど入る可能性もある。
今どき、PDCAを回さなくてよい仕事は少ない。とくにプロジェクト業務に携わる人は企画・立案・調査・分析をしなければ仕事も始まらない。
大手企業では入社5年目ぐらいでプロジェクトのリーダーを任せられる人も少なくない。ベンチャーや中小企業では入社2~3年目から担当させられても不思議ではない。しかもこちらは先の「高度プロフェッショナル制度」の対象者と違って年収要件はついていない。そうなると、企画業務型裁量労働制の対象者は営業職を含めて大幅に増えることは間違いない。