冬ドラマも続々とクライマックス。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所の山下柚実氏が総括した。
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今クールのドラマが始まった時、最も私の期待を膨らませてくれたのは『○○妻』(日本テレビ水曜午後10時)でした。まず、タイトルからして思わせぶり。脚本は『家政婦のミタ』の遊川和彦。柴咲コウが演じるミステリアスな妻。その妻を暗示する“○○”には、いったいどんな2文字が入るのか。世の注目も集まりました。
最初の段階で「○○妻」は「契約妻」だと明かす。では、結婚をしないで契約を更新していく夫婦関係とは何なのか。いったいなぜ契約にこだわるのかと、あらためて謎をかけ直した。
制作サイドは、『○○妻』の答は「契約妻」ではないと発表し、○○とは何なのかという謎の力で最後まで引っ張っていこうと気張っていました。たしかに、滑り出しは不条理劇の雰囲気を漂わせていたのです。
ところが。4話あたりで「妻は過去に子どもを見殺しにし、その重圧で結婚できない」という理由が明かされた。そのとたん、不条理劇の色彩はトーンダウン。契約にこだわる重大な理由が、唐突で何ともリアリティを欠いていた。とって付けた理由にしか見えなかった。そのあたりから、私の視聴テンションも降下していきました。
最終回まで見続けて、もはや謎はなく陳腐でありきたりな純愛ものへ。主人公は階段からころげ落ちて死ぬ、という安手の幕切れ。○○の2字がドラマで直接示されることはなく、要は、視聴者自身がその文字を考えてください、ということでしょう。
残念妻。空虚妻。
申し訳ないけれどそんな2字が浮かんでしまった。
テレビドラマはハードルが高い。ヒットを狙ってもそう簡単にはヒットしない。制作費はかさむし、作るのには手間がかかる。複雑な条件がいくつもぴたりと揃わなくては、話題作にならない。しかし時に、『半沢直樹』『家政婦のミタ』といったお化け的大ヒット作品が生まれたりする……。
では、未来を予感させる新しいドラマの兆しはどこに? 私が注目したのは「深夜」枠。「実験的」な試みが許される時間帯。特にテレビ東京『怪奇恋愛作戦』『山田孝之の東京都北区赤羽』の跳躍力から、新しい可能性を感じました。