アルファブロガーであり、元「切込隊長」の名前で知られる山本一郎氏が、今季、プロ野球球団楽天イーグルスの戦略アドバイザーに就任した。その経緯と仕事の中味はなにか。3月中旬、まだ冷え込みがきついスタジアムでオープン戦を観戦しながら、フリーライター・神田憲行氏がインタビューした。
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神田憲行:山本戦略アドバイザーw、今日はお忙しい中ありがとうございます。
山本一郎:いえいえ。昨日、仙台から帰ってきました。
神田:山本アドバイザーw、今季の楽天はどうですか。
山本:さっきからなんでいちいち「アドバイザー」て付けるんですか、しかもちょっと半笑いじゃないですか。そういうことを言うと、神田さんのことを「あの」ベストセラー作家の神田様って言いますよ。
神田:失礼しました。山本さんとはこれまで何度か野球観戦をご一緒させていただいたので、プロ野球好きなのは知っていました。しかしこれまでのお仕事は投資家であり、会社の経営で、野球の仕事とは唐突で驚きました。
山本:今回は楽天さんが公式に発表されたので唐突な印象があると思いますが、以前からデータ分析の仕事をしていたんですよ。私はなんでもモノゴトを「数値化」して見るのが好きで、投資はもちろん、野球も選手の能力を「数値化」するところから始まる。そこから、今までとは違った選手の能力が浮き彫りになったり、野球の仕組みみたいなのがわかるんですね。
神田:前から一緒に観戦していたときに思っていたんですが、山本さんは「この打者は初球から振った方が出塁率が何ポイント上がる」とか、セイバーメトリクス的なデータが非常に詳しい。一方で、データの傾向が現実に出てくるのを確認しているだけのような、スポーツらしい醍醐味の楽しみ方とはちょっと違うんじゃないか、みたいな気も正直していたんです。
山本:逆に神田さんは「この選手は女癖が悪い」みたいな、目の前のプレーと一切関係ない話しかしないじゃないですか(笑)。私はこのグラウンドの裏で「数値」や「数字」がどのようにやりとりされて、勝敗に絡んでくるのか、そこに興味があるんです。
神田:「数値」「数字」はこの世界の構造を知る切り口、みたいなことでしょうか。
山本:逆に言うと「数字で出ない感覚的なもの」は人によって言うことが違うし、信用できないんじゃないかと思ってます。
神田:具体的に選手の能力をデータ化するとは、どういうことなんでしょうか。
山本:投手なら、変化球なのか直球なのかを判別して、球を投げるリリースポイント、そのボールの「着弾点のばらつき」(捕手のミットに収まった場所)、回転数、球速などを計測して視覚化します。例えば直球は球にバックスピンを掛けますから、回転数が高ければボールが打者の手元でいわゆる「伸びる」球になる。回転数が低いと、打者の手元で俗に「垂れる」球になる。
神田:それで「垂れる」球の投手を、「伸びる」投手に鍛え直すという……。
山本:それが今までの野球界の考え方。「もっと球にスピンかけなくちゃダメだ」みたいなコーチの指示で無理なフォームに変えさせられたり、登板機会が減らされる。でもデータ分析の世界では《「垂れる」球イコール悪い球》とは、必ずしも言い切れないんです。球が垂れるということは、バットの下に当たることが多いので、ゴロアウトが取りやすくなる。そこで「球のばらつき」のデータを見てストライクを取るコースの分布が広ければ、その投手は打者からすると球が絞りづらいとわかる。そういう投手はストレートの質が平凡でも、中継ぎで1イニング、2イニングなら良い働きをしてくれそう、とわかるわけです。
神田:なるほど!データでその選手の「知られざる魅力」みたいなのが発掘できるんですね。
山本:そうそう。データというと査定のニュアンスから選手にダメだしする道具みたいな印象を持たれるんですが、そうじゃなくて、あくまで「どうしたらこの選手にもっと活躍してもらえるか」「どうすれば育つか」を考える材料なんです。私の仕事はあくまで選手とチームのサポートですから。