新たな才能の出現は、ドラマファンにとっても何よりの楽しみだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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NHK連続テレビ小説「マッサン」もいよいよ幕を閉じ、来週3月30日から土屋太鳳主演の「まれ」にバトンタッチ。どうにも退屈だった「マッサン」の半年間。単調なエピソードの繰り返し。ずいぶんと長く感じたのは私だけでしょうか。
「国産ウイスキーを生んだ男」というテーマ自体は興味深いものがありました。しかし、最初から「ウイスキーにこだわった主人公が研究を重ねて成功する」と着地点は見えている。そこへ恋話やら失敗談やら、こまごましたエピソードを差し挟んではみるけれどすぐに解決し、また次の話題へと移り深まらない。
社会との関わりもくっきりとは見えなかった。例えばシベリア抑留の強烈なトラウマすら、本人の中でたちまち解決してしまう。時代を描くのには浅薄すぎた。そして最後は、けなげに尽くしたヒロインがあっけなく病で逝って、涙の大団円。
「鴨居の大将」を演じた堤真一の、強烈な表情ばかりが私の中に残っています。といった辛口意見とは関係なく、視聴率は上々だそうで、制作陣もニコニコでしょう。
はた、と気付いた。どこまでも予定調和なこの感じ、どこかで見たことがある。良妻賢母、努力は美徳、信じれば成功する、といった凡庸。それは、NHK「朝ドラ」の神髄。
続く番組「あさイチ」で有働由美子アナが涙を流してみせるのも、何だか昔見たパターン。つまり、従来の「NHK連続テレビ小説」に戻っただけなんだ。
ここのところ「純と愛」「あまちゃん」「ごちそうさん」と、多少毛色の違うものが続いていただけであって、「マッサン」でまた元サヤに収まったということ。一つだけ新味があったとすれば、ヒロインが「外国人」だったこと。ただし、エリーさんは日本人以上にけなげで夫に尽くし優しく模範的な妻でした。となればなるほど、へそ曲がりとしては次回作に期待したくなる。
特に、「まれ」で主役を演じる土屋太鳳には注目。演技歴はさほど長くないけれど、2013年放送の「真夜中のパン屋さん」(NHKBS)で、キラリと光る才能を見せていた。
母に捨てられて、ガラスのような心を持つ女子高生。必死に生きようとする芯の強さ、けなげさと、孤独感と。矛盾を抱えた人物の緊張感が、浮かび上がっていた。
高校生といえば一番、キラキラと輝いて見える年頃。弾むような明るさと同時に、ふっと横顔をよぎる暗さを、あわせて表現するのはなかなか難しいはず。その演技力に「この若い役者さん、誰?」と驚き、初めて「土屋太鳳」という一風変わった役者名を知ったのでした。まさしく「磨けばさらに輝きそうな原石」。これから半年、その才能を多いに開花して暴れて欲しい。